クルマをいたわるための操作だった!
マニュアルトランスミッション、つまりMTは運転するのが楽しい。運転したことがある方ならわかるだろうが、MTはただシフトをコキコキと動かしていればいいわけではなく、スムースに走らせるにはコツが必要だ。また、旧車の場合は、MT自体の性能や構造、ヘタリなどによって、現行車種よりも扱いが難しかったりする。旧車ならではのコツを紹介しよう。
今どきのクルマはシンクロのおかげでスコスコ入る
今どきはシフトチェンジのスピードならDSGなどのツインクラッチなどのほうが速かったりするし、ATの出来もいいが、クラッチを操作しつつ、シフト操作するのは「クルマとの一体感」が味わえるなど、魅力がいっぱい。だからスポーツカーは走り好きに支持されるわけだし、旧車の魅力もそこにあったりもする。
たとえばシンクロ。シンクロとはシンクロナイザーリングと呼ばれる部品のことで、変速時に発生するギヤの回転差を吸収するもの。スコッと入って気持ちがいい、というのはシンクロのおかげである。最近のクルマでは、ダブルやトリプルなど複数装着されたり、素材もカーボンなどで、より気持ちのいいフィーリングを追求。摩耗などの耐久性も高まっている。
一方、旧車となるとシンクロの容量自体がもともと貧弱で、現在のクルマと同じ気分で操作するとギヤ鳴りしやすく、経年で摩耗が進んでシンクロ自体がヘタっていることもあって、いずれにしてもいたわってやることが大切だ。
かつてシンクロ付きは贅沢な装備だった
いたわる方法としてはいろいろとあって、簡単なところではゆっくり操作すること、また、ニュートラルでクラッチを戻しつつ、アクセルを吹かして回転を合わせるダブルクラッチはお馴染みだろう。さらに特殊なのが、1速に入れるとき、一旦2速に入れてからという方法だ。
これは単純に、シフトダウンするときは1段ずつ落としていくという意味もあるが、そのほかにも発車時や低速でニュートラルから1速へ入れるときにも使われる。後者のほうが一般的で、なぜ1速に入れるときだけなのか? 全部のギヤでやらないのかと疑問に思うかもしれないが、旧車ならではの事情がある。
1速のシンクロが弱いというのもあるが、そもそも付いていないクルマが多かったから。シンクロ付きというのは1950年代から1960年代にかけては贅沢な装備で、止まった状態、つまりトランスミッション内の回転差がほとんどない状態で使われる1速には必要がないだろうという判断もあって、付いていないクルマも多かったのだ。高級車やスポーツカーなどにはすべてのギヤに付いているが、この場合はカタログなどで「フルシンクロ」という謳い文句が踊っていたりする。
2速のシンクロを借りて1速に入れる
気を使っていればあまり問題にはならないが、完全停止させないで1速に入れるとギヤ鳴りさせてしまったりする。この1速が鳴りやすいという欠点を防ぐために行うのが、2速に入れてから1速に落とすという行為で、難しい内部の動きは省くとして、イメージとしては「2速のシンクロを借りて1速に入れる」というイメージ。
ギヤの回転は厳密に合っていなくてもいいので、できるだけ回転差を無くした上で1速に入れるというのが理由だ。実際にやってみるとギヤは鳴りにくいし、入りもよくなったりするので、やる意味はあるテクニックだし、乗りこなす楽しみにつながる、旧車乗り独特の作法といってもいいだろう。