スポーツカーと言うよりGTカー
余談はさておき、現行スープラである。神田橋JCTから浜崎橋JCTまでのワインディングのような首都高C1ステージを走っていて、楽しい感じはしない。敢えて角を丸めたというか、1枚も2枚も膜が張られている感じでどうにももどかしい。すべての挙動がたおやかなのである。
自分のスープラに抱くイメージが、20年前のカリカリにチューニングされた80スープラで止まっているせいもある。しかし、セリカXXの末裔だと思えば……納得なのである。
レインボーブリッジを渡って湾岸線へ。真ん中の車線を6速キープで流す。こうした少しリラックスしたステージでドライブするにはちょうどよかったりする。
大黒JCTから一気に横浜北線を目指して北上する。シフトノブの右隣にある「SPORT」ボタンを押す。メーターパネルはオレンジのラインがレッドに変わりレッドゾーンの表示が多少わかりやすくなるだけで、ほぼ変化なし。いわゆるノーマルモードからスポーツモードへと切り替えたとき、欧州のスーパーカーやスポーツカーは、ドライバーをこれでもかと鼓舞する表示に切り替わるが、スープラにはそうした演出は一切ない。むしろ、つねに冷静に走れとでも諭されているようだ。
ところで、メーターパネルのセンターにタコメーターが大きく鎮座しているのは、近代フェラーリのセオリー。つい最近までこのパートはアナログを堅持していた。モードによってタコメーターであったりスピードメーターに切り替わる──いかにもアウディ的な液晶パネルだったのは、アヴェンタドールの初期がそうであった。
このように、タコメーターを中心に据えるメーターパネルを採用するクルマは、エンジンの回り方やサウンドに自信があるケースがほとんどだ。では、スープラはどうなのであろう。ちょうど横浜北線のトンネルに入ったので、あえてギアシフトアシスタントをオフのまま、スポーツモードでシフトダウンすると、なんともいえない咆哮がトンネル内に谺するではないか。エンジンはBMW伝統の直列6気筒の「B58B30B」だ。
2997ccの直6の最高出力は387ps/5800rpm、最大トルクは500Nm/1800〜5000rpm。あえて高めの回転数をキープしたままアクセルペダルを踏み込んでいくと、マフラーエンドからなんとも心地よいサウンドを奏でている。この時代、エンジン搭載モデルにあえて乗るのなら、どんなにオールドスクールだといわれてもサウンドだけは譲れない条件のひとつだ。
「なんだ、しっかりツボを押さえてるじゃん」と、ひとまず納得したスープラとのファーストコンタクトであった。
適切な車両価格
80スープラがそうであったように、ロングノーズショートデッキという古典的なプロポーションをしていながらも、同時代の何にも似たデザインがない現行スープラ(フェラーリに似ているという意見もあるが、自分にはまったく別物にしか見えない)。公道を走る姿は、ポルシェ「ケイマン」どころか、「911」よりも新鮮だ。それは2019年の登場から3年以上経っているいまも変わらない。
1990年代に青春を過ごした世代にとって、久々に胸躍らされた国産スポーツカーではないだろうか。当時、ホンダ「NSX」、日産「R32スカイラインGT-R」、マツダ「FD3S RX−7」など、手が届くスポーツカーがたくさんあった。
スポーツカー好きのわれわれにとって、スープラの最大の功績はそのプライスにある。試乗車は731万3000円(消費税込、以下同)の車両価格に、本革シートとカメラ一体型ドライブレコーダー、ETCユニットのオプションを加えて744万2382円であった。
たとえばBMW M3(M4)と比較するとわかりやすい。80スープラの「RZ」(6MT)の新車価格が423万円、同じ時期のBMW E36 M3は730万円であった。現在のM4は1325万円〜なので、車両価格的な差は当時とほぼ同じである。NSXもカタログ落ちし、RX−7もディスコンとなって久しい。GT-Rに限っては、R32スカイラインGT-Rの新車価格が約450万円だったのに対して、現行GT-Rはエントリーグレードでも1000万円オーバーである(しかもデビューは2007年だ)。
トヨタがいかに企業努力して現在のプライスでスープラを販売しているのかがわかる。300万円前後で購入できる「GR86」に、手の届く憧れのクルマとしてのスープラ。スポーツカーの灯火を消さず継続させてくれているというだけでも、ありがたいことなのである。しかも、これだけスタイルがいいのだから。