現役BMW乗りが「スープラ」を斬る!
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」の最後を務めるのは、編集長西山。撮影も編集者自らが担当する当企画、前回までカールツァイス プラナー50mmのオールドレンズ一本で撮影に臨んでいましたが、老眼には敵わず、普通のレンズで撮影することに。BMWとの協業で生まれたトヨタ「スープラ」は、スーパーカー担当歴が長く、BMWオーナー歴25年以上の西山にどのように映ったのでしょうか。
「セリカ」の上位機種が「スープラ」
そもそも「スープラ」という名前は、トヨタ「セリカXX」を北米マーケットで展開するにあたって作られたもの。1978年のことであった。日本では1986年にセリカXXからスープラへと名称変更されたので、この通称70スープラからが「スープラ」として馴染みのあるものであろう。
どうして現行スープラの話の前にそのルーツから始めるのかといえば、スープラがそもそも「セリカ」の上級機種であったことを念頭に入れておかないと、スープラに過剰な期待をしてしまうからだ。
取手のようなドアハンドルをしっかり掴んでドアを開ける。タイトなコクピットはいかにもスポーツカーである。エンジンを始動すると、メーターパネルが点灯し、ドライバーのマインドも一気に切り替わ……らない。メーターパネルの面積に対して、表示部分が相対的に小さく、しかもデザイン自体にこだわりが伝わってこないのだ。
ドライバーを囲むようにして計器類が配置されていた80スープラは、ただドライバーズシートに座るだけでも、高揚感に包まれたものだ。現行スープラには、そうした過剰な演出がない。スポーツカーというよりはむしろGT的だ。
しかしそれは、スープラのオリジンがセリカXXであることを鑑みれば当然の帰結である。セリカXXのDNAを忠実に現代に甦らせたならば、スポーツ寄りのGTカーに落ち着くことは当然であり、それ以上を求めるのは酷であろう。
ただ残念なのは、BMWとの共用パーツを使いつつも、スープラの世界観をインテリアデザインで演出できなかったことだ。この点、ベントレーは非常にうまい。VWグループのパーツを使いながらも、ここぞという箇所にオリジナリティを遺憾なく発揮して、ベントレーの世界観をカスタマーに提供してくれる。もちろん、価格帯が違いすぎると指摘されればそれまでだが……。
編集部の地下駐車場からスープラを出し、いつものように神田から首都高に入って港の見えない横浜の自宅へ、3号ではなく遠回りをして湾岸線から帰宅することにした。
「ギアシフトアシスタント」に戸惑う
最新のMT車に乗る機会がなかったので──ランボもフェラーリも10年以上昔にMTと決別している──正直に申し上げると運転が下手になったのかと思った。シフトダウンしながらの減速の際に、エンジンの回転数が合わせられなかったのだ。
スープラには、ギアシフトアシスタントが付いているのでブリッピングする必要がないことを知らなかったのである。つまり、自動的に回転数を上げるところに“追い回転”を加えてしまったというわけだ。
自分の愛車が80年代のMT車なので、うっかりすると同じ過ちを何度も繰り返してしまうため、ギアシフトアシスタントを解除して運転することした。旧車乗りならば、こちらの方が身体に馴染んだフットワークで運転を楽しむことができる。
そもそも敢えてATではなくMTを選んだオーナーに、こうしたドライブサポート機能が必要なのかと問われれば、「必要である」と答えたい。MTでも最新の技術を味わうのが新車を手に入れる醍醐味のひとつだからだ。昔ながらのMTを操る悦びを堪能したい人は、ヤングタイマーかクラシックなクルマを手に入れて、当時感そのままに楽しむ方が幸せである。ようやく日本もこれら旧車に対するリスペクトが芽生えつつあるところだ。
スポーツカーと言うよりGTカー
余談はさておき、現行スープラである。神田橋JCTから浜崎橋JCTまでのワインディングのような首都高C1ステージを走っていて、楽しい感じはしない。敢えて角を丸めたというか、1枚も2枚も膜が張られている感じでどうにももどかしい。すべての挙動がたおやかなのである。
自分のスープラに抱くイメージが、20年前のカリカリにチューニングされた80スープラで止まっているせいもある。しかし、セリカXXの末裔だと思えば……納得なのである。
レインボーブリッジを渡って湾岸線へ。真ん中の車線を6速キープで流す。こうした少しリラックスしたステージでドライブするにはちょうどよかったりする。
大黒JCTから一気に横浜北線を目指して北上する。シフトノブの右隣にある「SPORT」ボタンを押す。メーターパネルはオレンジのラインがレッドに変わりレッドゾーンの表示が多少わかりやすくなるだけで、ほぼ変化なし。いわゆるノーマルモードからスポーツモードへと切り替えたとき、欧州のスーパーカーやスポーツカーは、ドライバーをこれでもかと鼓舞する表示に切り替わるが、スープラにはそうした演出は一切ない。むしろ、つねに冷静に走れとでも諭されているようだ。
ところで、メーターパネルのセンターにタコメーターが大きく鎮座しているのは、近代フェラーリのセオリー。つい最近までこのパートはアナログを堅持していた。モードによってタコメーターであったりスピードメーターに切り替わる──いかにもアウディ的な液晶パネルだったのは、アヴェンタドールの初期がそうであった。
このように、タコメーターを中心に据えるメーターパネルを採用するクルマは、エンジンの回り方やサウンドに自信があるケースがほとんどだ。では、スープラはどうなのであろう。ちょうど横浜北線のトンネルに入ったので、あえてギアシフトアシスタントをオフのまま、スポーツモードでシフトダウンすると、なんともいえない咆哮がトンネル内に谺するではないか。エンジンはBMW伝統の直列6気筒の「B58B30B」だ。
2997ccの直6の最高出力は387ps/5800rpm、最大トルクは500Nm/1800〜5000rpm。あえて高めの回転数をキープしたままアクセルペダルを踏み込んでいくと、マフラーエンドからなんとも心地よいサウンドを奏でている。この時代、エンジン搭載モデルにあえて乗るのなら、どんなにオールドスクールだといわれてもサウンドだけは譲れない条件のひとつだ。
「なんだ、しっかりツボを押さえてるじゃん」と、ひとまず納得したスープラとのファーストコンタクトであった。
適切な車両価格
80スープラがそうであったように、ロングノーズショートデッキという古典的なプロポーションをしていながらも、同時代の何にも似たデザインがない現行スープラ(フェラーリに似ているという意見もあるが、自分にはまったく別物にしか見えない)。公道を走る姿は、ポルシェ「ケイマン」どころか、「911」よりも新鮮だ。それは2019年の登場から3年以上経っているいまも変わらない。
1990年代に青春を過ごした世代にとって、久々に胸躍らされた国産スポーツカーではないだろうか。当時、ホンダ「NSX」、日産「R32スカイラインGT-R」、マツダ「FD3S RX−7」など、手が届くスポーツカーがたくさんあった。
スポーツカー好きのわれわれにとって、スープラの最大の功績はそのプライスにある。試乗車は731万3000円(消費税込、以下同)の車両価格に、本革シートとカメラ一体型ドライブレコーダー、ETCユニットのオプションを加えて744万2382円であった。
たとえばBMW M3(M4)と比較するとわかりやすい。80スープラの「RZ」(6MT)の新車価格が423万円、同じ時期のBMW E36 M3は730万円であった。現在のM4は1325万円〜なので、車両価格的な差は当時とほぼ同じである。NSXもカタログ落ちし、RX−7もディスコンとなって久しい。GT-Rに限っては、R32スカイラインGT-Rの新車価格が約450万円だったのに対して、現行GT-Rはエントリーグレードでも1000万円オーバーである(しかもデビューは2007年だ)。
トヨタがいかに企業努力して現在のプライスでスープラを販売しているのかがわかる。300万円前後で購入できる「GR86」に、手の届く憧れのクルマとしてのスープラ。スポーツカーの灯火を消さず継続させてくれているというだけでも、ありがたいことなのである。しかも、これだけスタイルがいいのだから。