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「トナーレ」の元ネタ「SZ」が1400万円! ザガートが手掛けたアルファ ロメオは販売的には失敗だった!?

「SZ」のフロントマスク、とくにヘッドライトのデザインが、「トナーレ」へと受け継がれている(C)2022 Courtesy of RM Sotheby's

最新「トナーレ」のデザインは「SZ」が源流

先日、アルファ ロメオ初となるマイルドハイブリッドを搭載した「トナーレ」が日本に上陸したばかりだが、そのフロントマスクのデザインは、1980年代後半に販売されていた「SZ」がモチーフとなっていた。このSZというクルマの生い立ちと、現在のオークションマーケットでの価格を調査してみた。

買収されたフィアットの起死回生として開発

アルファ ロメオは長い歴史を持つ自動車メーカーである。モータースポーツにも古くから参戦していて、数多くの栄冠を手にしてきた。エンツォ・フェラーリが若き日にアルファ ロメオのドライバーであったことも有名だ。

しかしアルファ ロメオの自動車メーカーとしての歩みは順調なものではなかった。とくに1980年代は経営が苦しく、ブランドを残すためにアルファ ロメオは1986年、フィアットに買収されることになった。

その結果、それまで独自の開発をおこなっていたアルファ ロメオは、コストカットのためにフィアットのプラットホームやエンジンをベースとしたモデル開発をおこなうようになり、アルファ「155」や大ヒットしたアルファ「156」はFFレイアウトを採用。FRレイアウト、アルファ ロメオ独自開発のモデルの最後は、買収前の1985年に発売された「アルファ75」と、長くモデルチェンジをおこなわなかった「スパイダー・ヴェローチェ」である。

1986年、アルファ ロメオを買収したフィアットは、アルファ ロメオというブランドを建て直すためには大衆の想像力をかき立てるモデルが必要と考えた。そこから生まれたのが、1989年のジュネーブ国際モーターショーで発表された「ES-30」というコンセプトモデルである。

デザインと製作を担当したのは、カロッツェリアであるザガート。このコンセプトモデルはデザインスタディで、ドライブトレインは搭載されていなかったのだが反響は大きく、同年アルファ ロメオは「SZ」を発売する。このSZとはSprint Zagatoを表すものだ。

SZのベースとなっているのは、アルファ75のプラットホームである。つまりレイアウトはFR。ただ、プラットホームは同じだがサスペンションは75のグループA仕様車をベースにチューニングし、油圧を利用して約40mmの車高調整が可能なものが採用された。

エクステリアデザインは過去にシトロエン「SM」をデザインし、当時はフィアットデザインセンターに所属していたロベール・オプロンが担当。インテリアデザインとエクステリア細部の仕上げは、やはりフィアットデザインセンターのアントニオ・カステラーナが担当し、製作はザガートが受け持っている。

1036台のみ生産

搭載されているエンジンは、75にも採用されていた3L SOHCV6を、190psから210psへとパワーアップしたもの。このシングルカム2バルブのV6エンジンは、156などに搭載されているDOHC4バルブエンジンよりも官能的なサウンドを奏でるものであったと記憶している。独特の「怪物」と揶揄されたボディパネルは、樹脂製である。生産台数は2年間の製造期間で1036台といわれている。

その成り立ちや当時のアルファ ロメオ、というよりもイタリア車全般の品質から、現在SZの高クオリティ車は非常に少ないのだが、今回パリで開催されたRMサザビーズオークションに出品されたSZは、信じられないくらいのクオリティを保っている。というのもこの個体、シリアル708は、新車当時からガレージ保管されていたものなのだ。

新車当時から大切に扱われた個体

フランス人オーナーが1989年9月6日にアルファ ロメオのコンセッショナリーであるソプラーナ・オートモーディブ社にオーダーし、1992年3月7日に納車されたこの個体、オーナーが2014年に亡くなったあとは子供たちが厳重に管理を続けていた。

走行距離は7869km。低走行というのは、旧車の場合はかえって不安を覚えるポイントでもあるのだが、記録によると定期的な整備が続けられていて、2021年にはディストリビューターベルトが交換されていることから、機能的な問題はないという判断ができる。

そのため、ハンマープライスは9万8900ユーロ(邦貨換算約1400万円)という、ヤングタイマーとしてはまずまずのものとなった。たしか日本での新車価格は1000万円程度だったように記憶しているし、状態の良さからすればそれほど高いというものではないのかもしれない。

いずれにしてもこの年代のイタリア車は、保管状態が悪いとすぐに劣化する。それも、ボディだけではなく配線類やセンサーなどは、走っても走らなくても壊れてしまうもの。それが完調であるというのは、それだけでも価値がある。その価値を含めて考えれば、このハンマープライスは妥当なものといっていいのだろう。

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