アメリカを気ままに放浪3カ月:58日目~62日目
これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。ロサンゼルスから北上してきて、今回の最大の目的地であるワシントン州のオリンピック国立公園を満喫したあとは、のんびり気ままに過ごすことにしました。
6月26~27日 セクイムベイ・ステートパーク
なんとなく目標を失い、これからは有名な観光地を移動して回るのではなく、2泊、3泊と気持ちのいい場所に落ち着いて、自然のなかで書いたり読んだりしようという気になった。そして、ポート・エンジェルスのモーテルを出て、20マイル(32km)も行かないうちにセクイムベイ・ステートパークにチェックインし、2泊してしまった。
なんの変哲もないキャンプ場だがゆったりして居心地がよく、湾奥の静かな海がやさしく感じられた。何度かボートランプ(ボートを湖に下ろす斜面)に足を運んでいると、見たことがないほど真っ赤な夕陽に出会った。こういう自然との遭遇も楽しい。
時間がたっぷりあるときしか読めない本を楽しむ
書いたり読んだりというが、では、何を読んでいるのか。その話をしてみよう。今回の旅のために持ってきた本が何冊かある。まずは、原田マハの『暗幕のゲルニカ』。仕事の関係で『ジヴェルニーの食卓』という短編集を読む機会に恵まれてハマった。今回の旅には必ず持っていこうと決めていた1冊だ。
ピカソと恋人のドラ・マールとのやりとりと、現代に生きる日本人女性キュレーターの活躍が折り重なるように語られるアート・サスペンスだ。妄想気味な展開がちょっと気になるが、本当によくできた小説で食い入るように読んでしまった。
池井戸潤の『下町ロケット』は、たまたま古本屋で見つけて買ってあった1冊で、今回の旅のメンバーに加わった。読者を物語に引き込む筆圧は評判どおりで、いつの間にか登場人物に感情移入していた。長編小説なので時間潰しになるかと思ったが、ヘッドランプとランタンの光で集中して読むと、あっという間に読み終えてしまった。
英語の本では、『ガリバー旅行記』。これは父の形見で、こういう機会がないと読むことはないと考えた。単語や文法も古く読みやすくはないが、辞書を片手になんとか読み切った。時間がいくらでもあるときにしか読めない本だろう。
村上春樹の『MEN WITHOUT WOMEN』は、ユージーンのスティーブ・ファミリー・ブックストアで見つけた。濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』がよかったので、ぜひ原作を読んでみたいと思っていた。ただ、なんとなく敬遠してきた作家なので、翻訳版に出会えてちょうどよかった。
西海岸を縦断するルート101、終点はオリンピア
カリフォルニアのカルチャーが好きな人なら、海沿いを走る国道「101(ワン・オー・ワン)」に特別な思いを抱いている人も多いだろう。しかし、101が最終的に北の端がどうなっているか、知っている人は少ないはずだ。
カリフォルニアからオレゴンに入った101は、海岸線を一気に北上、ワシントン州に入る。そして、小さな入江の町を舐めるように、さらに北に向かうと、オリンピック半島をぐるりと時計回りに4分の3周してワシントン州第2の都市、オリンピアで終点となる。振り返ってみれば、今回のぼくのルートの多くは101と一緒だった。
キャンピングカー旅に慣れると水もあまり使わなくなった
この頃になると、ぼくの放浪キャンプもだいぶスタイルが確立してきた。簡単にいえば、フリーキャンプ、ドライキャンプだ。それを可能にしたのが、シガーソケットからDC12Vを取るインバーターだ。これでPCとカメラの電池の充電を心配しなくてよくなった。
こうなると水もあまり使わなくなる。以前は、食器を洗うのにも水をたっぷり使っていたが、紙で拭いてさっと洗うくらいで済ませると、水のフックアップも2週間に1度でよくなった。シンプルでエコなキャンピングスタイルは、なかなか気持ちがいい。
オレゴン州に南下してポートランドでショッピング
セクイムベイを出てからは、I-5(州間高速道路5号線)のレストエリア泊で一気にオレゴン州に戻ってきた。ポートランドで妻の誕生日プレゼントを買うことを思いつき、柄にもなくインターネットで宝飾店を検索して高級ブランド店が並ぶサードストリートに乗り入れた。
なんとか苦手な買い物を済ませて、次に向かったのがチャイナタウン。ダウンタウンは以前に歩いたことがあるので、異なる活気を味わってみたかったのだ。
ところが、これが完全に裏目に出た。まるでスラムである。ホームレスばかりで、活気どころではない。路上には家代わりのテントがずらりと並ぶ。たまにはチャイニーズを食べたいと思っていたが、営業している店などない。結局、ダウンタウンのフードトラックのカルアポークでお茶を濁すのが精一杯だった。
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ポートランドはとくにひどかったが、今回、訪ねたアメリカの町でホームレスの姿を見ないことはなかった。世界を代表する経済大国で、この現状を見るのは悲しい。コロナだ、ウクライナだ、分断だといろいろな言い訳があるのかもしれないが、これは人類が正しいと信じて邁進してきた資本主義の結末ではないのだろうか。
町にホームレスがいるように、海には信じられない量のプラスチックが漂っている。地球の気温は上昇し続け、ゴミは増え続ける。こんな世界に、いったい誰がしたのだろう。
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