アメリカで著名なカーコレクター「テッド・ギルドレッド」が所有していた
2023年2月1日、RMサザビーズがパリで開催したオークションにおいてポルシェ911カレラRS2.7ツーリンが出品された。ナローポルシェ時代の大傑作と言われている1973年型の911カレラRS2.7は、いくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
市販車向けのレースシリーズに参戦するために開発
ポルシェの911カレラRSの特徴的なリアスポイラー”ダックテール “は、シュトゥットガルトから生まれた最も人気のあるスポーツカーの名刺のようなモノ。このモデルは、1960年代後半から1970年代前半にかけてル・マンを制したプロトタイプレーサー、タイプ917の引退後の空白を埋めるために、FIAが新たに立ち上げた市販車向けのレースシリーズに参戦したいというポルシェの熱い思いから生まれた。レーシングプログラムの成功は、ポルシェのコンペティションにおける存在感を高めるだけでなく、ロードゴーイングカーの販売も促進することになると、ポルシェの経営陣は考えていたのだ。
ポルシェのコンペティション部門は、911Sクーペを出発点として、カレラRSの2つのホモロゲーションバージョンを開発した。「ライトウェイト」(オプションM471)とも呼ばれるスポーツモデルは、競技用として内装を大幅に削ぎ落としたものである。そして「ツーリングバージョン」(M472)は、ライトウェイトの特徴を受け継ぎながら、より快適な一般道での使用を目的としたモデルである。
出品されたカレラRSは、かつて日本にあった個体
ツッフェンハウゼンを出発した1580台のカレラRSのうち、1308台(今回出品されたシャシー「1446」を含む)が人気の高い「M472」ツーリング仕様で製造された。当該カレラRSは、1973年6月にドイツにて新車で納車されたと記録されている。グランプリホワイト(レッドレタリング入り)、ブラックレザーレットインテリアで出荷され、現在も同じカラーリングが施されているのが見て取れる。
最初のオーナーはドイツとイギリスの両方でレースに参戦、1990年代半ばにはイギリスでレストア作業が行われた。その後、当該カレラRSは日本に売却され、2003年に米国に渡った。アメリカでは、著名なカーコレクターであるテッド・ギルドレッドの所有となり、彼が2019年に他界した後、彼のコレクションから他のクルマとともに売却された。
ギルドレッドが所有していた期間中の2005年から2015年までの修理明細、ポルシェ・カーズ・ノースアメリカが発行した「車両出生証明書」、新車時のドライバーズマニュアル、いくつかのスペアパーツやツールキットなども車両に含まれていた。そして、去る2月にフランス・パリで開催された、RMサザビーズのオークションにて47万7500ユーロ(邦貨換算約6700万円)で落札された。
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この手のクラシックモデルになると、もはや“適正価格”は分からない。入札する人たちは損得勘定よりも、その時に欲しいか否かで入札し、予算も特に決めていないケースが多々。オークション開催地での“盛り上がり”如何で、いかような落札価格にもなる。美術品含め、クラシックカーオークションの面白いところでもある。