スポーツカー未満、実用車以上の乗り味とは
コンバーチブルの追加デビューに先立つこと数カ月、パブリカは1963年5月に鈴鹿サーキットで開催された「第1回日本グランプリ」C-IIクラスレース(401cc~700cc)で上位7位独占という大戦果を収めていた。そんなこともあって、コンバーチブルは贅沢さだけではなく、トヨタのスポーツイメージを高揚させる目的も担うことになったという。
もちろん、走行性能はスポーツカーと呼ぶには若干心もとないものではあったが、乗用車創成期にあたる当時の日本では、オープンタイプ≒スポーツカーと思われていたこともあって、パブリカの場合でもクルマ好きの間ではスポーツカーに準ずるモデルと見なされていたようだ。
とはいえ、たとえばエンジンなどの主要コンポーネンツを共用する超個性的なライトウェイトスポーツカー、「ヨタハチ」ことスポーツ800と比べてしまえば、パブリカ・コンバーチブルのスポーツ性は正直あまり期待できないと考えていた。だが、いざステアリングを握って走り出してみると、筆者の予想は良い方向に裏切られることになった。
正真正銘の大衆向け実用車であるパブリカは、乗りにくいことなどほとんどなく、始動もセル一発。クラッチミートも素直で、じつに扱いやすい。
長めのシフトレバーを操作して走り出す。低い回転域では「ボコボコボコ」という2気筒らしい排気音が、回転が上がるにつれて澄んできて「パララララッ」と変わってくると、いわゆる「カムに乗る」状況となるのか、モリモリとトルクを生み出してくる。スロットルレスポンスも意外にシャープながら、吹き上がりは少々のどか。低中速トルク優先のチューンであることがわかる。
鋼板製のルーフを取り去って軽くなった分は、フロア周辺の補強などで相殺されてしまったようだが、それでもUP20Sの車両重量は640kgと、現在の常識からすれば考えられないほどの超軽量車。速いとまでは言わないながらも、郊外の国道の流れには充分ついていける走行性能を有していることが分かった。
ただしウォーム&セクターローラー式のステアリングは、操作が軽い分ややスロー。また軽量なフラットツインを搭載する割には、ノーズの入り方もゆるめである。だから、スポーツカー的なアジリティこそ望めないものの、ハンドリング特性はいたって素直なもの。またリアアクスルは古典的なリーフリジッドでも、乗り心地も決して荒くはない。
トヨタでは、これまでに時おり独創的なメカニズムが投入されたモデルが現れてきたが、UP10/UP20パブリカはまさしくその好例と言えるだろう。さらに、2気筒エンジンの痛快なサウンドをオープンエアで楽しめるコンバーチブルは、楽しさ3倍にも感じてしまう。
取材日は気温-1.5℃という、オープンカーを走らせるにはかなりシビアな天候。標準装備のヒーターは、空冷ゆえかほとんど役に立たない状況だったが、この爽快感に身を任せているうちに、寒さなどまるで気にならなくなっていた。
* * *
あくまで実用車として作られたパブリカからルーフを取り去っただけで、こんなに楽しい乗り物となってしまうのか……。
実用車のオープンモデル自体が絶滅危惧種となっている今となっては、もはや望めないモデルであるのは間違いない。でも、たとえば「ヤリスクロス」あたりをベースにカブリオレ版を創ったら、それはそれで魅力的な現代版パブリカ・コンバーチブルになる……? なんて、愚にもつかない妄想をしてしまった筆者なのである。
■「旧車ソムリエ」連載記事一覧はこちら