ドイツの自動車事情のリアルをリポート
ドイツ在住でモータースポーツの魅力を伝えるべく東奔西走している池ノ内みどりさん。ドイツでのクルマ事情などをリポートしてもらう新連載、第1回はドイツで売れているクルマについて。2022年の年間販売台数で、トップ3はフォルクスワーゲンでしたが、第4位となったのはなんとイタリアのフィアット「500」。人気の理由とは?
南ドイツはドイツの名門自動車メーカーが揃う
少しずつ日没時間が遅くなり、晴れた日には春らしい日差しになってきましたが、まだまだ寒い日が続き、厚手のダウンが手放せません。本格的な春の訪れが待ち遠しい毎日です。
さて、ワタシの住む南ドイツのミュンヘン市には、BMWグループが本社を構えています。また、BMWに限らず南ドイツではほかにもドイツ御三家とよばれるメーカーのアウディとメルセデス・ベンツに加え、世界に誇るスポーツカーのメーカーのポルシェが軒を連ねます。
自動車メーカーが集う南ドイツでは、もちろんそれらのメーカーのクルマを非常に多く見かけるのですが、じつは意外なクルマも多く走っているんですよ。
街乗り用での人気はもちろん初心者や高齢者にも好評
2022年もドイツ国内でもっとも売れたクルマはVW「ゴルフ」でした。もういったい何年独占しているのか分からないくらいに売れ続けています。2022年の新車販売台数トップ10のなかで上位3位をVW車が独占しましたが、それに続いたのは自国のメーカーではなく、なんと隣国イタリアのフィアット500。2022年はドイツ国内だけで5万2337台を売り上げました。その数は、日本の同年の4858台に対して、10倍以上の数です。
ここ数年、街でよく見かけるようになったフィアット500。なぜドイツ国民のハートをこんなにも射止めたのでしょうか。近所のフィアットの正規販売店に伺ってみたところ、一番の購買層は若い女性ですが老若男女問わずとても人気で、仕入れたクルマはすぐに買い手がつくそうです。レトロでキュートなデザイン、手軽な価格と街乗りにぴったりなコンパクトなボディがマッチするようです。
昨今の自動車は大きくなり過ぎて、都市部の狭い道路ではすれ違うのも厳しい場合もあります。ですが、フィアット500なら狭い道路もスイスイ走ることができ、縦列駐車のスペースも小さくて済みます。ですから、セカンドカーや近隣の通勤用として購入される方がもっとも多いそうですが、70馬力と非力なため、ハイパフォーマンスを不要とする免許取り立ての若者や、ご年配者のニーズにもマッチするようです。また、中古車市場も盛況で、多少年式が古くてもあまり外観が変わらないのも売れるポイントのようです。
MT比率の高いドイツではEVでATになったら売れない!?
これまでこのフィアット500のポジションは「スマート」が担っており、若者に向けたポップな広告やイベントを開催していたイメージですが、いつの間にかそんなスマートは街からはほとんど姿を消していました。今後EVを中心に展開するフィアット500ですが、まだ販売店ではほとんど購入希望者は現れていないとのこと。今後EVになってもドイツの街でフィアット500は愛され続けるのか気になるところです。
ドイツで販売されているフィアット500の大半がMT車。元々AT車の需要はほとんどないだけに、生産数も少ないようです。しかも、すでにAT車の製造は中止され、今後主流となっていくEVのみAT仕様となります。新車のAT仕様は店頭在庫のみとのことで、一瞬、心がぐらついて「買います!」と思わず手を上げそうになったワタシでした(笑)。
また、お店の方によると、新車価格ではAT車の方がMT車よりも約3000ユーロ(約42万円)も割高なこともあり、MTを運転できる人がわざわざATを購入することは少ないようです。ここミュンヘン市の朝夕のラッシュは、東京以上ですけどね。
そして、一時ドイツの街にもちらほら見がけたフィアット「500L」というミニバンタイプをほとんど見かけなくなったのが残念です。フィアット500と同じく丸みを帯びたかわいらしいフォルムのミニバンは、日本での正規販売はしていなかったようですが、ミニバン大国の日本で販売されればヒットしたのではないかなぁと、当時思ったものです。いまはこれに代わってSUVの「500X」がありますが、なぜかこちらにはあまり興味が湧かないワタシです。
ワタシがお店にお邪魔した際には、ご年配の男性がフィアット500Xではなく、500を熱心に見学されていました。果たしてご自身用なのか、ご家族用なのか、ちょっと気になるところですね。大柄なドイツ人男性だとひとりだけで乗っても結構キツそうではありますが……。