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エンジンフードは開けっぱなしが正解! 貴重なアバルト「595SS」を現代的にアップデートした理由とは

1971年式フィアット・アバルト595SS(エッセエッセ)

フィアットの大衆車をチューニングして名を馳せた「アバルト」

ヒストリックカー趣味が高じて13台ものクルマを収容できる大きなガレージを建てた東北在住のカーガイ、Kさん。ガレージに鎮座する数々の名車のなかから今回紹介するのは、現在も子孫がアバルト「595」として人気を博しているイタリアン・ホットハッチの元祖、フィアット・アバルト「595SS」です。

欧州でヒストリックカー競技に参戦していた個体

往時のモーターシーンを彷彿とさせる赤×グレーのウイニングカラーに、フロント、リアともに大きく張り出されたオーバーフェンダー。それだけでなく、リアにはほぼ水平にまで大きく開かれたエンジンフード。キャレロ製の補助灯で武装したフロントマスクの存在感もさらにレーシーな雰囲気を漂わせている。そのシルエットを見ただけでも、ただ者ではない感がハンパないこのクルマは、1971年式のフィアット・アバルト「595SS(エッセエッセ)」だ。

この個体はもともと、スイスにある自動車部品メーカーが所有していたもので、アイスレースやラリーなどのヒストリックカー競技に参加していた経歴をもつ。それらの競技のレギュレーションに合わせたアップデートも施されており、現代のシーンでもかなりのポテンシャルを持った仕上がりとなっている。現行型のラインナップにもその名が引き継がれるアバルトが誇るホットバージョン、そのディテールをチェックしてみよう。

チューンドエンジンを現代にあわせてアップデート

まずはやはり、誰もが目を引かれるほぼ水平まで開かれたリアのエンジンフード。片側3本のスチール製丸棒をトラス状に造作されたステーは、デザインの美しさだけでなく、時代を反映した素材感も魅力的だ。

ラバー製のフックを外して心臓部を覗きこむと、冷却用フィン入りのアバルト製アルミタペットカバー。カバーに覆われた594cc空冷2気筒OHVエンジンへと燃料を供給するキャブレターは、595SSが純正で装着していたソレックスから、ウェーバー40DCOEへとアップデートされている。そしてかなり横方向へと薄く伸びた長方形のオイルクーラーに、オイルキャッチタンクが備わっているのも、レギュレーションのしっかりした競技へ参加していた証だろう。

また、エンジン下部には「ABARTH」の文字の入った大容量化されたオイルパンが覗く。これも実用性はもちろんのこと、アバルトの存在感を大きく引き立たせるアイテムだ。

そしてフロントフード内には、燃料タンクに加えて面白いものが装備されている。ドイツ・ベバスト社製の燃焼式エアヒーターで、軽油やガソリンを燃料に停車中も安定して室内を暖められるため、長距離トラックをはじめ、近年はキャンピングカーや車中泊用のアイテムとしても人気のアイテムだ。ヨーロッパで寒い氷上競技に有効だったのだろうと想像するに難くなく、Kさんのガレージがある日本の東北地方でも重宝するようだ。

ほかにエクステリアでは、2連につないだワイパー、ヴィタローニ製のミラー「カリフォルニアン」も、コンペティション車両だったことを窺わせてくれる。

トランスミッションは4速から5速にモディファイ済み

インテリアに目を移すと、運転席側はバケット化されており、安全性を考量してかヘッドレストも備わっているが、助手席側のノーマル形状のシートと違和感なく仕上がっている。

メーター類はイエーガーとアバルト、2つのネームの入ったメーターが備わり、追加のものはない。そして助手席前のダッシュパネルにはハザードスイッチが。年式的には装着義務は不要だが、ラリーなど公道上でのアクシデントを知らせるため追加されたようだ。

また、この595SSはトランスミッションが純正の4速から5速にアップグレードされていて、本来は装備されていないシフトゲートを新設し、ミスのない的確な操作を可能にしている。足まわりも、当時のアバルトでも用意されていたディスクブレーキ化がなされていて、現在のクラシックカー競技のレギュレーションに合わせた最良のアップデートが施されているわけだ。

速くてキビキビした走りで自然に笑顔になれる

このほかに「フィアット・アバルト750GTゴッチア ヴィニャーレ」、「750レコルトモンツァ・ビアルベーロ」と2台のクラシック・アバルトと、21世紀のアバルト「695トリブート・フェラーリ」も所有しているKさんだが、ボディ換装タイプではない、大衆車をベースにチューニングを重ねた595SSではアバルトのまた違った魅力を楽しんでいるそうだ。

「ゴッチアやレコルトモンツァは軽くてよく曲がるのは変わりないですが、運転する時はいつもどこか緊張しています。595SSは、速いのはもちろんですが、キビキビしていて運転していると自然と笑顔になってしまう感じがまさに『ゴーカートに乗っている感じ』なんです」

* * *

なお取材日はちょうど、友だちのSさんが1959年式のフィアット「500」でKさんガレージに遊びに来ていた。こちらは500が2代目(ヌォーヴァ500)となった1957年から間もない時期の希少なレアモデルだ。14年前にチンクエチェント博物館から購入し、北海道や岡山、岩手などへ遠征してラリーイベントに参加しているとのこと。

ほとんどノーマル状態の初期型フィアット500と、レースシーンのため高性能化を重ねたハイチューンド仕様のアバルト595SS。並べてみると変更点の多さが面白い一方、小さくて可愛らしい姿でがんばって走る雰囲気には、やはり相通ずるものがあるのだった。

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