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「ホンダZ」は軽自動車初のスペシャルティカーだった! クラスを超えた質感の高さはライバルに影響【国産名車グラフィティ】

ミニマムサイズのスペシャルティカーとしての堂々たる風格を漂わせるフロントマスク

マイナーチェンジでシャシーもエンジンも大刷新

軽自動車でスタイリッシュなスペシャルティクーペという新たなる提案をしたホンダ。低いルーフとノーズで伸びやかなフォルムを実現し、さらにマイナーチェンジでエンジンを空冷から水冷に変更した。シャシーも刷新するなど、「ホンダZ」はモデルライフで幾度もの進化をし続けたモデルである。

新たな価値観を生んだ未知のクルマ

ホンダが送り出す軽自動車は、常に刺激的だ。初の軽乗用車として開発され、市販に移された「N360」は、圧倒的なパワーと驚異の低価格で瞬く間にベストセラーカーになった。軽自動車界のリーダーへと一気に上り詰めたホンダの首脳陣は、おごることなくN360に続くヒット作を生み出そうと議論を重ねた。

多くのアイディアが出され、新しいジャンルの開拓も提案されている。導き出した答のひとつが、今までどのメーカーも足を踏み入れなかったミニマムサイズのスペシャルティカーだ。当時の軽自動車の最大寸法は、全長3000mm、全幅1300mm、全高は2000mmである。全長と全幅は事実上変えられないため、自由度があるのは全高だけだった。そこで背を思い切り低くし、クーペ風のデザイン処理を考えている。

1970(昭和45)年9月、ホンダはセンセーショナルな軽乗用車、ホンダZを10月に発売すると発表した。アルファベットのZは未知を表す数字で、未来への可能性を秘めた軽自動車であることを意味している。10月3日にベールを脱いだが、発表会場に詰めかけた報道陣は驚嘆した。目の前に軽自動車とは思えないスタイリッシュなフォルムの3ドアクーペが姿を現したからである。

エクステリアのキャッチフレーズは「プロトタイプルック」だ。ロングノーズに見せるために低いボンネットの先端を尖らせ、ヘッドライトは奥まった位置に取り付けた。台形のグリルは独立したデザインだ。

サイドビューは、軽自動車とは思えないほど伸びやかなフォルムである。フロントピラーを強く傾斜させ、厚みのあるサイドパネルに対しガラスエリアは意識して薄くした。これに続くリアクオーターピラーは太いため躍動感と前進感が強い。縦長のドアハンドルも新鮮な味わいだ。

全高は当時の軽自動車でもっとも低い1275mmとした。リアビューで特徴的なのは、ブラックで縁取りされた大きなハッチガラスだろう。大きな面積で印象が強かったため、多くの人が好意的に「水中メガネ」と呼んだ。跳ね上げて開閉でき、荷物を出し入れしやすい。便利だから1970年代半ばにはリアゲートを装備する軽自動車が一気に増えた。

ブラットフォームやパワートレインなどのメカニズムは、1970年1月に登場したN III 360から譲り受けた。ホイールベースは両車とも2000mm。デビュー時のバリエーションは、シングルキャブレター仕様がACTとPRO、ツインキャブ仕様がTS、GT、GSだ。それぞれのグレードが強い個性の持ち主だった。

ホンダZの発表と同じ時期にトヨタが初代セリカを出したため、奇しくも2台のスペシャルティカーが揃い踏みすることになった。また、これまた同じ時期にデビューした初代フェアレディZと顔立ちが似ている、という声も飛び出している。多くの人の耳目を集め、注目の存在だったことは確かだ。発表直後の東京モーターショーやホンダの週末フェアには多くの人が足を運んでいる。

シャシーとエンジンだけでもフルモデルチェンジ並みの大変更

前期型のエンジンは、熟成の域に達したアルミ合金製のN360E型空冷直列2気筒SOHCだ。半球形燃焼室を採用し、ボア62.5mm、ストローク57.8mmで、総排気量は354ccになる。可変ベンチュリーCVキャブを1基装着したエンジンは最高出力31ps/8500rpm、最大トルク3.0kgm/5500rpmを発生。圧縮比を9.0に高め、ツインキャブを装着したエンジンは36ps/9000rpm、3.2kgm/7000rpmだった。

トランスミッションはフルシンクロの4速MTを基本とした。シフトレバーはセンターコンソール下から伸びている。ツインキャブ仕様の最高速度は120km/h。フラッグシップのGSには、量産の軽自動車初の5速MTを採用した。ステアリングギヤはキレのいいラック&ピニオン式。サスペンションは夏に登場したN III 360タウンと同じタイプとしている。フロントはコイルスプリングのマクファーソンストラットで、Iアームにトーショナルスタビライザーの組み合わせとした。リアはリーフスプリングによるリジッドアクスルだ。

ホンダZは低重心でハンドリングがスポーティだから、全国各地のサーキットで開催されていたミニカーレースに多くのプライベーターが参戦している。エンジンを500ccまでボアアップしたZが多く、スズキ「フロンテ」やダイハツ「フェローMAX」などの2サイクル勢と熾烈なバトルを繰り広げた。素性がいいこともあり、つねに上位に食い込み、好成績を残している。

デビューから1年後の1971年11月、ホンダZはフルモデルチェンジ級の進化を遂げた。フロアパネルを新登場のライフから譲り受け、パワーユニットも一新。振動を打ち消す2本のバランサーシャフトを内蔵した水冷のEA型直列2気筒SOHCに換装したのだ。EA型は低鉛ガソリンに対応した新世代ユニットで、ブローバイ還元装置や電動ファンなど、環境性能を重視した新発想のエンジンだった。

また、日本で初めてタイミングベルトを採用したエンジンでもある。ボア67.0mm、ストローク50.6mmの2気筒で、総排気量は356ccだ。パワースペックはN360E型エンジンと大差ないが、快適性や燃費性能は大きく向上している。3速ATとの相性もよかった。

立体的なダッシュボードデザインはクラスを超越した質感を実現

ホンダZはインテリアも新鮮な感覚のデザインだった。上級クラスのように立体感のあるインパネで、センタークラスターまで一体的にデザインされている。そして深いコーンのなかにメーターを並べた。このスポーティなインパネは「フライトコクピット」と名付けられている。

フルスケール1万回転表示のタコメーターと140km/h表示のスピードメーターを並べ、その左側に補助メーターを縦に2個重ねた。中央寄りには大きなベンチレーションベントが存在感を主張している。ステアリングは樹脂製だが、3本スポークのスポーティなデザインだ。

1971年1月、ひと足遅れてGSが発売された。イメージリーダーだけに5速MTのほか、145SR13ラジアルタイヤや特製のバケットタイプのフロントシート、パッシングライトなどを専用装備としている。そして同年2月、ファッショナブル仕様のゴールデンシリーズを追加。ボディと同色のリアゲートやカラフルなシート、グレーメタリックのグリル、ホワイトリボンタイヤなどで粋にドレスアップしている。

前記したように、ホンダZが大きく変わるのは1971年11月だ。フロアパネルを変更したことにより型式がN360からSAに変わり、ホイールベースは80mmも延長された。グリルの位置を下げ、湾曲の強いデザインのバンパーを装着した。リアコンビネーションランプも色味と配置を変えている。ハッチゲートの開閉機構がキーからノブで開けるタイプに変更されたこともニュースのひとつだろう。

また、名称をシングルキャブ仕様はゴールデンシリーズ、36psのツインキャブ仕様はダイナミックシリーズに変えた。このビッグチェンジのときにGSが整理されている。

ホンダZは1972年11月に2度目の仕様変更を行った。センターピラーを取り去り、ピラーレスのハードトップとしたのだ。また、フェイスリフトを実施し、シビックと似た2分割のハニカムグリルを採用した。リアバンパーは分割式になっている。エンジンもツインキャブ仕様だけに絞り込み、3速ATが消滅した。

最後の変更は1973 年夏だ。衝撃吸収ハンドルやタンデムマスターシリンダーなど、安全装備を充実させている。その1年後、ホンダは軽自動車市場から一時撤退する。今も語り継がれる孤高のクーペがホンダZだ。

ホンダZ・GTL(SA)
●年式:1972
●全長×全幅×全高:2995mm×1295mm×1275mm
●ホイールベース:2080mm
●車両重量:510kg
●エンジン:EA型直列2気筒SOHC
●総排気量:356cc
●最高出力:36ps/9000rpm
●最大トルク:3.2kgm/7000rpm
●変速機:5速MT
●サスペンション(前/後)ストラット・コイル/リーフスプリング 
●ブレーキ(前/後)リーディングトレーリング/リーディングトレーリング
●タイヤ:5.20-10-4PR
●新車当時価格:46万1000円

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