オールアルミ製水冷エンジンは4ストローク4気筒ならではの滑らかな回転フィール
キャロルは、軽量で高い剛性を誇るモノコック構造を採用し、ワイドボードによるフレームレスのユニットボディとしている。
エンジンも軽自動車の域を超える凝ったものだった。R360クーペは空冷のV型2気筒をリアに積んでいたが、キャロルは上級のファミリーカーと同じ贅沢な水冷4サイクル直列4気筒OHVを搭載し、後輪を駆動する。
メカニズムも凝りに凝っており、しかも進歩的だった。エンジンは、ヘッドからシリンダーブロック、クランクケース、クラッチハウジングなど、すべてが軽量で放熱性に優れたアルミ合金製。「白いエンジン」というニックネームを与えられていた。OHVゆえプッシュロッドはあるものの、ハイカムシャフトとして高回転までストレスなく回るようにしている。また、上級モデルでも例が少ない5点支持のクランクシャフトや電磁式のフューエルポンプも採用したため、スムーズさと静粛性が際立っていた。
DA型と名付けられたこの4気筒OHVエンジンは、ボア46.0mm、ストローク54.0mmで、総排気量は358cc。点火プラグは燃焼室の中央付近にセットされ、吸・排気系がシリンダーヘッドの左右にあるクロスフロー・レイアウトを採用する。ちなみにオイル潤滑は、R360クーペがドライサンプだったのに対し、キャロルは一般的なウエットサンプだった。
圧縮比は驚異的な10.0で、最高出力18ps/6800rpm、最大トルク2.1kgm/5000rpmを発生した。当時のエンジンとしては驚くほど高回転まで回り、4気筒ならではの滑らかさも群を抜いている。しかもレギュラーガソリン仕様だ。ただし、車両重量は525kgと重く、絶対的なトルクも細いから、パンチ不足は否めなかった。
トランスミッションは2速ギア以上にシンクロメッシュを備えた4速マニュアルを採用する。最高速度はR360クーペと同じ90km/hだ。最終モデルではフルシンクロのミッションへと進化し、シフトパターンも変更されている。ついでに書けば、最小回転半径も4.3mから4mに減少し、取り回し性能も向上した。
ユーザーからパワー不足を指摘されたため、キャロル600を投入し、4ドアを設定したときにアルミ合金製のDA型358ccエンジンもパワーアップ。20ps/2.4kgmに性能を向上し、最大トルクの発生回転数も2000rpm引き下げたから格段に扱いやすくなった。
サスペンションは、R360クーペと基本的には同じだ。前後ともトレーリングアームにトーションラバーを組み合わせた異色のレイアウトで、ラバースプリングのスプラインを組み替えることによって車高を変えることができた。ブレーキはフロントが2リーディング、リアがリーディングトレーリングのアルフィン油圧ドラムだ。路面や天候にかかわらず、安定した制動フィーリングが自慢だった。
1964年5月、マツダはキャロルで第2回日本グランプリにワークス体制で参戦。ドライバーは2輪の世界で活躍した片山義美や社員ドライバーの片倉正美など。キャロルはT-Iクラスで、片山義美が予選3位を奪ったものの決勝レースでは4位になり、表彰台を逃した。また、キャロル600はT-IIクラスに出場し、パブリカ勢に続く4位。車両重量が重く不利な条件にもかかわらず奮闘した。
今につながる軽自動車の基礎を築いた名作が、初代キャロルだ。商用車を含め、軽自動車すべてに安全性の高い合わせガラスを採用した。これも絶賛すべき快挙と言えるだろう。
時代を先取りしたセンスと安全装備を採用した小さな高級車と呼ぶに相応しいクルマ
エクステリアはクロームメッキのモールを多用するなど、上級クラスと遜色ない見栄えのよさだった。これに対しインテリアは、シンプルな装いだ。ドライバーの前に半円形のメーターを置き、ダッシュボードの上には灰皿、その下にはラジオのスペースを設けている。だが、ホーンリングを備えた2本スポークのステアリングは上品なデザインで、他の軽自動車よりエレガントだ。
120km/hまで目盛りを刻んだスピードメーターに、燃料計だけでなく水温計が組み込まれている。これが空冷エンジンを搭載するほかの軽自動車と違うところで、優越感を味わえた装備だ。
発売から3カ月で加わったデラックスは、ウインドウウォッシャー噴射が手動式から電動式に。ライバルと比べても装備は充実し、あらゆるところが1クラス上をいっていたのである。
キャロルはルーフを違う色にしたツートーンがあるが、それとコーディネートするようにシートも粋なコンビシートを用意している。ホワイトにレッドやブルーなど、2色に塗り分けているからオシャレだ。2ドアは後席の乗り降りのため、フロントシートが前に倒れる。また、運転席の裏には、途中から小物を入れるシートバックポケットが加わった。
助手席はバックレストを折りたたんで座面と合わせると、小物が置けるスペースが生まれる。現代のクルマのようなアイディアをキャロルは60年近く前に採用していたわけだ。もうひとつ見逃せないのが安全対策の徹底だ。法制化されるはるか前でありながらも、フロントガラスは合わせガラスを採用。破損したときに細かく砕け散ることがなく、視界を妨げない。
1970年夏に生産を終えた初代だが、累計販売台数は25万台超。2代目はシングルローターのロータリーエンジンを積むと噂されたが、これは幻に終わってしまった。だが、世界に類を見ない「小さな高級車」と呼ぶに相応しいクルマ、それがマツダが送り出したキャロルといっても過言ではないだろう。
キャロル(KPDA)
●年式:1969
●全長×全幅×全高:2990mm×1295mm×1320mm
●ホイールベース:1930 mm
●トレッド(F/R):1050/1100mm
●車両重量:540kg
●エンジン:DA型水冷直4OHV
●総排気量:356cc
●最高出力:20ps/7000rpm
●最大トルク:2.4kgm(235Nm)/3000rpm
●変速機:4速MT
●駆動方式:RR
●サスペンション(前/後):トレーリングアーム
●ブレーキ(前/後):2リーディング/リーディングトレーリング
●タイヤ:5.20-10-4PR