アルピナ「B3」に高性能モデルがあった
5代目3シリーズは、初めてセダンがE90、ツーリング(ワゴン)がE91、クーペがE92、カブリオレがE93と型式が分かれたモデルだ。そしてランフラット・タイヤが標準となったモデルでもあり、E30型からE36型E46型へと正常進化的なデザインの変化を見せる中、E90シリーズは大きなデザイン言語の変更を受けて、新しいBMWを感じさせる、そんな時代の流れを見せたモデルでもある。
このE90系をベースにアルピナが仕立てたモデルが「B3ビターボ(ツインターボ)」で、それぞれのボディタイプにアルピナモデルが存在するのだが、このGT3は限定発売されたさらなる高性能モデルである。
「M3」を上回ったパワー
「335i」をベースとしたB3ビターボが、最高出力370ps/5800rpm、最大トルク51.0kgm/3800rpmを発揮するのに対して、「B3 GT3」はそれぞれ410psと55.0kgmを誇っており、当時は「M3」よりも高性能ではないか! と話題になったものだ。
アクラポビッチ製のエキゾーストや、車高と調整機能付きのショックアブソーバーも採用した上に、アライメントも専用セッティング。加えてブレーキも前輪を6ポッドとしたほか、LSDにはドレクスラー(ドレクセラ)の機械式を装着。
なんといっても19インチのホイールの重量は約10kgという、恐ろしいまでの軽量化まで図られている。どれだけ高性能であっても速さを売りにはしないアルピナでは珍しいモデルと言えるだろう。
だがこれには理由があった。それはアルピナが国際モータースポーツへの参戦を行ない、ドイツのツーリングカーレースのマスタークラスで優勝を飾ったのである。
優勝を記念して99台限定でつくられた
参戦車両は、2010年の冬にエンジン、ギアボックス、シャシーと共にエアロパーツも徹底的に改善されたBMW アルピナB6 GT3 Evo。このマシンのドライバーに、元DTMドライバーのアレクサンドロス・マルガリティス氏とGTプロのディノ・ルナルディ氏の両名を迎え、2011年のADAC GTマスターズのドライバーチャンピオンシップを獲得したのだ。
アルピナの名がレースシーンで再び輝いた瞬間だった。これを記念して99台の限定モデルのBMW アルピナ「B3 S ビターボクーペGT3」を東京モーターショーで発表したのである。
今回サザビーズのオークションでの落札価格は8万500ユーロ(邦貨換算約1140万円)。日本での当時の新車価格は1297万円であるので、2012年に製造されたモデルとしては高価といって良いだろう。限定とは言えそれほど古いモデルでもないし、MTではなくて、普通のトルクコンバーター式ATを採用しているモデルなのだから。
しかし高値が付いたのにはほかにも理由がある。この個体の走行距離はわずか636kmで、99台のうちの9番目であることも保証されているのである。
ファーストオーナーはおそらくコレクターであったことが予想されるが、アルピナが輝いていた時期のアイコンとして、今後さらにプレミアムが付くのではないだろうか。