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「R32 GT-R」のチューニングにラジオ製作の経験が活きた! 「オートセレクト」が五感を研ぎ澄ませて仕立てる理由とは?

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TEXT: 増田高志  PHOTO: GT-R Magazine

R32はRB26に関するあらゆる弱点を教えてくれたクルマ

それまではユーザーのクルマで吸・排気系とブーストアップといったライトな仕様が多かったが、それでも350psぐらいはすぐに出た。ほかのエンジンでこうはいかない。素性の良さにやる気はみなぎった。

R32GT-R

「自分のGT-Rでは壊れるまで試せるのでRB26の特徴が浮き彫りになる。いろいろと教わりました。比較的楽にパワーは出るのですが、そのぶん思いも寄らない部分に不具合が生じる。その繰り返しに明け暮れて少しずつ正解が見えてくる。このR32でRB26の弱点はほぼ克服できました。さんざん手を焼いたはずなのに嫌なイメージはないですね。若かったので苦労も楽しめたからでしょう。うまくいって安堵した場面ばかりが印象に残っています」

とくに燃料ポンプには気を配った。チューニングやセッティングが完璧だとしても、全開時にポンプがうまく作動しなければ一瞬でエンジンはブローするからだ。燃圧は侮れない。

燃料ばかりでなくオイルのポンプにも注意が必要だった。ギアが割れて油圧低下を引き起こし、焼き付くケースも多い。高回転でのクランクの振動が原因だ。

エンジンの内圧の高さにも手を焼いた。ブローバイガスの発生が多く、エンジンヘッドのオイルがオイルパンまで戻らない現象も多発。リターン用の通路の拡大は必須だった。

RB26特有の弱点はオイル関係が多かった。オートセレクトではオリジナルのオイルパンも作ったほどだ。もちろん今では当たり前のことばかり。わかってしまえば単純な原因でも、手品の種と同じでそれまでは見付けにくいものだ。

そうこうしながら仕立てた初めてのR32は、ノーマルクランクにキャレロのコンロッドとワイセコのピストンを組み合わせた2.7L仕様で、カムはIN/EXともにトラストの272度。タービンはTD06S-20Gでエキゾーストハウジングが8cm2のものを2機掛けとし、トラストのウエストゲート1機で排圧を調整する。

インタークーラーはトラストでオイルクーラーはニスモ。インジェクターは750ccでボッシュのポンプはふたつセット。エアフロメーターはR32のタイプM用を使ってメインコンピュータで制御する。この仕様でブーストを1.5kg/cm2かけると750psはマークできる。

「当時エアフロメーターはZ32用を使うのが主流でしたが、うちはタイプM用ばかりでした。対応馬力はZ32用のほうがやや大きかったですが、タイプM用はきめ細かく制御できて、アクセルオフでのターボの吹き返しの影響も受けにくかった。吹き返しでエンジンが止まる場合もありますから無視できません」

最高速アタックはマシンの実力を試す絶好の場

このクルマで雑誌社主催の谷田部でのテストにも頻繁に訪れた。もちろん順位は気になるが、それよりも実力を確認することを重視する。

チューニングカーといえども基本的に壊すのが嫌いなので、入念にセッティングを施す。すでにクルマの弱点は把握しているので、あとは予測できない事態に備えて手を尽くす。

澤代表は実走のセッティング中には五感を研ぎ澄ませて臨んでいるという。人間に備わる感覚を駆使して、メーター類では確認できない領域まで網羅する。とくに振動や音、それに臭いなどを中心に不安材料を徹底的に潰していく。

「記録を出すことよりも走り切ることが重要なんです。しかも走って終わりではありません。帰ってきてからも走らなければならない。チューニングカーは記録を出すためのクルマではなくて、日常を楽しく移動できる乗り物だと思っています」

澤代表は記録会でも気負いがない。いつもの自然体を貫いている。徹底的に走り込んでからでないと挑まない性格のため、フェイルセーフ的な要素を盛り込んで万全を期すからだろう。イチかバチかはあり得ない。

「努力が反映されるからチューニングは楽しいですね。バイクでマフラーを換えていたころと心意気はまったく一緒です。報われるのがわかっているから、のめり込んでしまう」

R32は澤代表を心底楽しませた。ひと筋縄ではいかなかったが、思惑がカタチになり、想像以上の成果が出た。のめり込む澤代表の想いを素性の良いR32が存分に応えていった。

「何でも叶えてくれる」と錯覚してしまうほどイジり甲斐がある。チューナー冥利に尽きると実感させてくれたクルマ、それがR32だ。

(この記事は2021年8月1日発売のGT-R Magazine 160号に掲載した記事を元に再編集しています)

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