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メルセデス初代「SLK」は「小さなSL」だった!「最善か無」の哲学が貫かれた抜かりない装備を振り返る

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TEXT: 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)  PHOTO: メルセデス・ベンツ

ルーフの開閉はとてもカンタン

エンジンは2.3L DOHC直列4気筒スーパーチャージャーを搭載し、193ps/5300rpmを発揮、トランスミッションは電子制御5速ATであった。車両重量は1350kgと軽量で、加速や巡行速度は充分であった。ボディ寸法は全長3995mm、全幅1745mm、全高1285mm、ホイールベース2400mm、最小回転半径は4.9mとメルセデス・ベンツ特有のハンドル切れ味で、狭い田舎道でもじつに取り回しの良いSLKであった。

SLKの走り

バリオルーフの操作も、シートに座ったままセンターコンソールの赤いスイッチひとつでフルオープンにもクーペにもなり、じつに簡単だった。オープンからクーペへの変身は、まずサイドウンドウが下降してトランクリッドが後方へ開き、トランク内に格納されたルーフが滑るようにせり出してクーペ状態に。そして、トランクリッドが閉まりルーフ部がロックされ、サイドウンドウが閉まれば完了だ。その時間は、わずか25秒ほどだった(エンジンを掛けて停車中の場合)。

注目したいポイントは、バリオルーフ格納時も収納スペースに使えるトランクルームであった。コンパクトなスペースセーバータイヤなどの採用により、ルーフ格納時も135L(VDA方式)の容量を確保でき、荷物収納スペースとして使用できた。ルーフを装着し、トランク内部を仕切るカバーを外せば、338L(VDA方式)の容量にもなった。また、トランクリッドはバンパーレベルから大きく開き荷物の積み下ろしも楽であった。

案外知られていないかもしれないが、この電動油圧式バリオルーフが故障した場合、マニュアル操作で開閉することができる。さすが、メルセデス・ベンツの伝統である。機械/電動が故障した場合のことをきちんとカバーするシステムまで考慮して設計していることに感心させられた。

メルセデス・ベンツらしいしっかりとしたハンドリング

フロントにはダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用し、リアサスペンションはメルセデス・ベンツが世界に先駆けて開発し世界のベンチマークとなったマルチリンク式。独自に位置決めされた5本のリンクが後輪の運動を制御し、コーナーリング時の横Gや加速・減速時の荷物移動など、車両に加わるさまざまな力に対して後輪が的確に姿勢を維持する。

これにより狙い通りのライントレースが可能になり、コントロールしやすいニュートラルステアを実現してくれた。また、ブレーキング時も、踏力に応じて減速し狙い通りの位置にピタリと止まってくれる。まさに、メルセデス・ベンツらしい走る・曲がる・止まる性能は、軽量でコンパクトなSLKでも実感でき楽しかった。

スイッチひとつでオープンからクーペに25秒以内で変身できるが、軽量かつコンパクトなオープンカーにとって最重要なポイントは、横転、転覆時の安全性だ。このメルセデス・ベンツSLKは、ロールオーバーテストでの安全性はもちろんのこと、その他多くの厳しいテストを繰り返して世に送り出されており、安全性の高い軽量でコンパクトなオープンカーの先駆車であると言える。

* * *

メルセデス・ベンツ伝統のクルマ造りの哲学「最善か無」のひとつに掲げられている「乗り心地や安全性が二の次にされがちな小型車にこそ、それを克服するための最新技術を優先して採用すべきである」という設計者の強い意志がある。事実、1931年に生産されたメルセデス・ベンツ初の小型車170/W15が、世界で最初の量産車として四輪独立懸架を採用した伝統がある。その伝統は、しっかりと初代SLKにも受け継がれていたのであった。

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  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 1949年生まれで幼少の頃から車に興味を持ち、40年間に亘りヤナセで販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特にメルセデス・ベンツ輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版のカタログや販売教育資料等を制作。またメルセデス・ベンツの安全性を解説する独自の講演会も実施。趣味はクラシックカー、プラモデル、ドイツ語翻訳。現在は大阪日独協会会員。
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