小さいボディでもしっかりとメルセデス・ベンツらしさを味わえた
コンパクトなボディでオープンエアを楽しめるスポーツカーとして誕生した「SLK」。小さいながらも、伝統ある車名のSLを受け継ぐモデルとして気持ちいい走りを楽しめるモデルだった。今回は筆者が当時試乗した印象を振り返る。
メルセデスの伝統あるスポーツカーのスタイリングを受け継いでいたことに感動
筆者は実兄が所有していた初代SLK230コンプレッサー(R170)をドライブしたとき、まさにSLKのオープンエア・モータリングの爽快さを味わった。そして、クルマを自分の身体のように操って駆ける愉しさもあった。
少し長いボンネットと前後のショートオーバーハング、低く抑えられたフロントウインドウ。その基本フォルムはまさにFRスポーツカーの伝統的なテイストだった。とくに、パワードームと呼ばれるボンネットフードの2本の稜線が伝説の300SLや190SLを彷彿とさせてくれた。
シートに座り、本革巻きスポーツステアリングに触れただけで胸が騒いだ。クロームでトリミングされたホワイトメーターやその文字盤のデザイン、ラバースタッド付きステンレス製ペダルなどコクピットもトラディショナルなテイストが豊富に散りばめられていた。何よりも人間工学に基づいて設計された操作・視認系のレイアウトは、非常に使いやすく見やすかった。
限られたコクピットスペースに適したサイズを実現するため、サスペンションシステムを持つシートは、ロングドライブ時でも疲れなくフレッシュな気分でいられた。これはポリウレタンクッションとプラスチック製のシェルを、コイルスプリングを介してシートフレームにマウント。このスプリングがサスペンションの役目を果たしており、加えてシートパッドのコンパクト化と優れた振動吸収性を両立させたから疲労感が少ないのだと痛感した。
さらに、人間工学に基づいて設計した独特のシートバック形状により、確かなサイドサポートと伸びやかな着座位置を同時に実現し、疲れにくい適正な運転姿勢を確保できた。
コンパクな室内には、意外にも小物入れスペースが多くあった。通常のダッシュボックス/コンソールボックス、左右のドアポケット以外に、後ろを向くとシートとトランクを仕切るパーティションウォールにも気の利いた小物入れポケットが用意されており、お洒落なグッズ入れだと感じた。
ロングドライブでは引き出し式のカップホルダーが非常に便利であった。特筆すべきは、オープンドライブに欠かせない風の巻き込みを防ぐドラフトストラップ。ロールバー部に脱着式で装着可能で、「髪が乱れない」「帽子が飛ばない」という快適なオープンエアドライブを楽しませてくれた。
ルーフの開閉はとてもカンタン
エンジンは2.3L DOHC直列4気筒スーパーチャージャーを搭載し、193ps/5300rpmを発揮、トランスミッションは電子制御5速ATであった。車両重量は1350kgと軽量で、加速や巡行速度は充分であった。ボディ寸法は全長3995mm、全幅1745mm、全高1285mm、ホイールベース2400mm、最小回転半径は4.9mとメルセデス・ベンツ特有のハンドル切れ味で、狭い田舎道でもじつに取り回しの良いSLKであった。
バリオルーフの操作も、シートに座ったままセンターコンソールの赤いスイッチひとつでフルオープンにもクーペにもなり、じつに簡単だった。オープンからクーペへの変身は、まずサイドウンドウが下降してトランクリッドが後方へ開き、トランク内に格納されたルーフが滑るようにせり出してクーペ状態に。そして、トランクリッドが閉まりルーフ部がロックされ、サイドウンドウが閉まれば完了だ。その時間は、わずか25秒ほどだった(エンジンを掛けて停車中の場合)。
注目したいポイントは、バリオルーフ格納時も収納スペースに使えるトランクルームであった。コンパクトなスペースセーバータイヤなどの採用により、ルーフ格納時も135L(VDA方式)の容量を確保でき、荷物収納スペースとして使用できた。ルーフを装着し、トランク内部を仕切るカバーを外せば、338L(VDA方式)の容量にもなった。また、トランクリッドはバンパーレベルから大きく開き荷物の積み下ろしも楽であった。
案外知られていないかもしれないが、この電動油圧式バリオルーフが故障した場合、マニュアル操作で開閉することができる。さすが、メルセデス・ベンツの伝統である。機械/電動が故障した場合のことをきちんとカバーするシステムまで考慮して設計していることに感心させられた。
メルセデス・ベンツらしいしっかりとしたハンドリング
フロントにはダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用し、リアサスペンションはメルセデス・ベンツが世界に先駆けて開発し世界のベンチマークとなったマルチリンク式。独自に位置決めされた5本のリンクが後輪の運動を制御し、コーナーリング時の横Gや加速・減速時の荷物移動など、車両に加わるさまざまな力に対して後輪が的確に姿勢を維持する。
これにより狙い通りのライントレースが可能になり、コントロールしやすいニュートラルステアを実現してくれた。また、ブレーキング時も、踏力に応じて減速し狙い通りの位置にピタリと止まってくれる。まさに、メルセデス・ベンツらしい走る・曲がる・止まる性能は、軽量でコンパクトなSLKでも実感でき楽しかった。
スイッチひとつでオープンからクーペに25秒以内で変身できるが、軽量かつコンパクトなオープンカーにとって最重要なポイントは、横転、転覆時の安全性だ。このメルセデス・ベンツSLKは、ロールオーバーテストでの安全性はもちろんのこと、その他多くの厳しいテストを繰り返して世に送り出されており、安全性の高い軽量でコンパクトなオープンカーの先駆車であると言える。
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メルセデス・ベンツ伝統のクルマ造りの哲学「最善か無」のひとつに掲げられている「乗り心地や安全性が二の次にされがちな小型車にこそ、それを克服するための最新技術を優先して採用すべきである」という設計者の強い意志がある。事実、1931年に生産されたメルセデス・ベンツ初の小型車170/W15が、世界で最初の量産車として四輪独立懸架を採用した伝統がある。その伝統は、しっかりと初代SLKにも受け継がれていたのであった。