アバルトとのジョイントで進められたプロジェクト
アルファ ロメオの新たなグループC、SE048“SP”が製作されたのは、同社からは公式的な発表はされていませんが、1990年代初頭と見られています。ただし、製作された、という表現が相応しいかどうかは意見の分かれるところです。
というのもプロジェクトは1990年の秋に急遽中止となってしまったのです。その経緯を紹介する前に、プロジェクトの進捗を説明しておきましょう。
1985年限りでワークスとしてのF1活動を終えたアルファロメオは、次なる活躍の舞台を探っていました。同じフィアット・グループ内では、F1GPでフェラーリが、世界ラリー選手権(WRC)でランチアが王座に就いていたため、アルファ ロメオが先ず考えたのは1988年から始まることになっていたプロカー・シリーズでした。
これは以前に紹介したアッパーミドルの4ドアセダン、164のシルエットを持ったマシンで、カーボンファイバー製モノコックのミッドにF1規定に則った3.5LのV10レーシングエンジンを搭載した純レーシングカーでした。このプロジェクトでアルファ ロメオはアバルトとともに、かつてF1GPでジョイントしていたブラバム/MRDとともに開発を進めていましたが、他の参加者が現れずにシリーズは不成立となってしまいます。
そこでアルファ ロメオが次なるプロジェクトとして選んだのがグループCカーによるWSPCでした。これはアバルトとの共同プロジェクトとなり、まずはターボ時代のWECに参戦していたランチアLC2に、プロカー用に開発していた3.5LのV10レーシングエンジン=V1035を搭載したテストマシンをアバルトで製作。グループCへの転用が可能かどうかを判断することになりました。
結果的に、V1035では新生のグループCには不向きと判断され、新たな3.5LのV12レーシングエンジン──アルファ ロメオからは公式な発表はありませんでしたが、のちに英国のフェスティバル of スピードで走らせたときの情報から、このエンジンはフェラーリのF1に使用されていた3.5LのV12だったと判断できます。
完成を目前にプロジェクトが休止
アルファ ロメオからの公式な発表は確認できませんが、いくつかの資料からは排気量が3498cc(ボア×ストローク=84.0mmφ×52.6mm)で気筒当たり5バルブのツインカムヘッド(V12なので4カム)を備えており、680bhpの最高出力を絞り出しているようです。
そして新たなシャシー、アバルトの開発ネームでSE048を名乗るグループCマシンが製作されることになりました。オゼッラからアバルトに移動したばかりのジュゼッペ・ペトリーナが開発を担当したと伝えられています。
まだ旧時代のターボカーが主導権を握っていた1990年シーズンのWSPCでシーズン終盤にテスト参戦を果たしたプジョー905が基準モデルを提案し、1991年シーズンにデビューしたジャガーXJR-14で示した新たなスタンダードを、再びプジョー905 Evo1 bisで革新していった“新時代”のグループCでした。
今回紹介するアルファ ロメオSE048“SP”は、カーボンファイバー製のモノコックに3.5L V12 (当初はV10)を搭載しているだけでなく、空気抵抗を低減するためのリア・ホイールカバーが装着されてはいます。パッケージで見る限りは基準モデルのプジョー905と似たようなところにあり、そのことからも1990年に完成したと分析されています。
結局、完成を目前にプロジェクトが休止され、SWC自体も1992年で終了。SE048 “SP”は現在、ミラノ郊外、アレーゼにあるアルファ ロメオ歴史博物館(Museo storico Alfa Romeo)に収蔵されています。ただし今回出逢った個体は博物館に展示されているのではなく、展示エリアとは別フロアの収蔵保管庫で静かに余生を過ごしていました。もっとも展示フロアで一般に公開されていたこともあるそうで、またいつかは展示フロアに引っ張り出されることがあるかもしれません。