まちなかでも扱いやすい最小回転半径は5.2m
そんなエレメントを走らせれば、立ち気味かつ天地に狭いフロントウインドウの視界が特徴的だ。つまり、ドライバーとフロントウインドウが、往年のミニやポルシェ911のように近く、人車一体感を醸し出す。だが、サイドウインドウは天地に狭く、よく言えば囲まれ感がある室内空間だ。しかし、狭さなどまったく感じない。それは室内幅の広さと天井の高さによるものだろう。
走行性能はアメリカンかつイージーに走るのに最適だ。エンジンはアコードとも共通するが、低回転域からトルキーで、1560kgのボディを力強く引っ張り、加速させる。決して静かでも超パワフルでもないエンジンだが、おおらかな気持ち良さはしっかりと伝わってくる。海沿いの道を、サイドウインドウを全開にしてクルージングするには、それでいい。ちなみにパワーステアリングはアメリカンな軽さではなく、ホンダ流にドシリと重めにしつけられている。
嬉しいのは幅広ボディにして小回りが利き、扱いやすいこと。なにしろ最小回転半径は5.2mと小回り性抜群なのである。
わずか2年8カ月の寿命だったエレメント
グッドイヤーのオフロード系タイヤを履き、乗り心地も悪くない。特別に快適……とは言えないものの、センターピラーレス車にありがちなボディのゆるさも全く感じられない、ドシリとした乗り味が好ましい。ワイドトレッドを生かした安定感やキビキビ感は、なるほどホンダ車である。いずれにしても、海に似合うクルマであることは間違いない。
以上のレポートは2003年春に、当時、講談社ホットドッグプレスのクルマ記事担当だった筆者が、沖縄試乗会のブセナリゾート周辺を試乗した時の試乗メモからの抜粋である。
さて、そんなホンダ・エレメント、日本では2005年12月に販売終了。わずか2年8カ月の寿命だった。当時としては幅広なボディ、観音開きドアによる後席の乗降性、ワイルドすぎるルックス、そして259万円という高めの価格設定などから、人気がいまひとつ盛り上がらなかったからだろう。
だが、つい最近、六本木で見かけたのだが、これがちょうど20年前のクルマとは思えないカッコ良さ、今風のルックスを持っていたのだから、感動モノだ。今、新車で発売すれば、観音開きドアの使い勝手はともかくけっこう注目され、アウトドアブームの最中、ヒット作となるんじゃないかと思わせてくれたほどだった。
そこで中古車を調べてみると、新車当時の車両本体価格259万円に対して、意外なほど値落ちが少ない(プレミアム価格!?)120~220万円という値付けとなっていた。なかには走行5万キロちょっとという個体もあるにはあったが、クルマのキャラクター、新車からの年数によって、10万キロオーバーの個体がほとんど。
もし、10万キロ以下、修復歴なしの個体で程度のいいエレメントがあれば、これは見っけモノである。先進運転支援機能などは皆無だが、サーファーのみならず、アウトドア派のクロスオーバーモデルとして今でも絶大なる存在感を発揮してくれる、ホンダのネオクラシックカーの1台となりうるはずだ。