ガソリンエンジンは消滅していく運命なのか……
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「カマロ EV」だ。現在、カマロは6.2L V8と2L直4というふたつのパワートレインを採用している。ダウンサイジングターボを搭載したことに時代の流れを感じるが、それがEV化してしまったら、本当にカマロと言えるのだろうか? と木下隆之は危惧する。クルマとエンジンの関係性について語る。
人気の大排気量アメリカンマッスルがまさかのEV化!?
V型8気筒が絶滅危惧種になりつつある。世界的なカーポンニュートラルの流れの中で、大排気量NAエンジンを搭載するスポーツモデルは逆風にさらされており、まもなく淘汰される気配が濃厚だ。
とくにその象徴なのはアメリカンマッスルの雄、シボレー「カマロ」であろう。
V型8気筒であり6.2Lもの大排気量だ。レクサスも同様に、「IS500」や「RC F」、「LC500」などはV型8気筒の5L NAを搭載。環境化の時代に逆らう。
コンパクトなボディに大排気量エンジンを搭載することで人気を得てきたメルセデス「SL」でさえ、新型のメルセデスAMG「SL」では、なんと2L直列4気筒ターボにまで排気量を下げた。排気量を下げることでCO2排出量を削減し、それによって不足したトルクを過給器で補うというダウンサイジングの手法を採用したわけだ。
だが、それによって失った魅力は少なくない。V型8気筒の独特のビートがなくなり、排気量の余裕も失った。数値上のパワーによって最低限の加速性能は満たしているものの、味わいがなくなったのである。それも時代の流れなのか……。盲目的な環境主義の帰着点なのか。大排気量至上主義を標榜する僕らにとっては、いささか悲しい。
それにしても驚きなのは、ビッグトルクを最大にして唯一の武器にするシボレー カマロでさえ、EV化を発表したことだ。そもそもカマロには6.2L V型8気筒エンジンに並行して、2L直列4気筒エンジンをラインナップしている。ボンネットを開ければ、気筒数にして2分の1であり、排気量にして3分の1にも満たないエンジンが目に付くのだ。しかもEV化となれば、そのエンジンすら消えてなくなる。自動車というものの汎用性は広いと思える。
エンジンが変わってしまったらそれは別物のクルマではないか
たとえばバイクのエンジンに対する汎用性は皆無である。気筒数や排気量を変更すれば、それはまったく別のバイクになる。エンジンすらもプラットフォームの剛性支持部材のひとつであるからだ。ボンネットの中に積めれば、それが小さくても大きくても、あるいは電気モーターになったとしても走るクルマとは、まったく別なのだ。
だがやはり、クルマの搭載するエンジンが変わればそれは、別物になると僕は思いたい。前後重量配分は劇的に変わるわけだし、それによって激変する操縦性は無視できない。そもそも、アメリカンマッスルであることで人気を保持してきたあの迫力が担保されるのか。怪しいのである。
6.2LV型8気筒と2L直列4気筒のエンジンを併用するカマロのカタログをぺらぺらとめくりながら、一方でカマロEV化のウェブ記事を知って、どこか寂しく思う。