なぜマイクロカーがこんなに高価なのか
それにしても、なぜマイクロカーがこんなに高価かといえば、足まわりなども、例えばDB5はフロントのダブルウィッシュボーンやリアのパナールロッドなども、オリジナルのジオメトリー同様に再現されていて、ロールセンターもディスクブレーキも同じだとか。ステアリングホイールもマホガニーウッドとアルミで、レザー内装にボンネットやトランクの開閉まで、忠実に造り込まれている。
しかも、どのモデルもオリジナルがアルミの叩き出しボディである通り、スケールダウンされたとはいえ、すべて職人がアルミ板を叩いて作り出している。つまりオリジナルのメーカーに対するライセンス料も生じるが、より少ない部材や材料で昔どおりに近い流儀で、申し分なく由緒正しく認められた4輪の乗り物であることは保証されている。
いったいどこを走らせるのか
また、「もし買えたところでどこを走らせるの?」という疑問が、ドメスティックかつ円安な観点から、もたげてくるかもしれない。だが、世界には自宅が単なる「家」というより、農場か荘園かドメーヌか、いずれ「プロパティ」と呼ぶべきスケールの、テニスコートやヘリポートが当たり前のように備わった私有地で、塀に囲われた庭や森の中で舗装路がループしていて、子どもが数10km/hで走り回るような場所には困らない、そんな不動産物件はいくらでも存在する。
「そんな高いクルマ(というかマイクロカー)、ブツけたらどうするの?」という見方もあるかもしれないが、フードコートで走り回っているようなしつけ以前の少年少女と、一緒の感覚で心配してはいけない。子どものうちから高価で替わりの効かないモノの扱いに慣れさせるための訓練ツールでもあるので、ティーンエイジ手前ぐらいでも由緒正しいサラブレッド&エスタブリッシュメントの子息令嬢ともなると、意外なほど大人びていたりする。
それにザ・リトルカー・カンパニーの究極の目標は、オーナー間コミュニティを作り上げること。上で挙げたマイクロカーを購入したオーナーは一生にわたって「ザ・リトルカー・クラブ」のメンバーシップの栄誉に全員、浴することができる。いわば社交界コネクションの青田買いができるかもしれませんよ、というワケだ。
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いかにも英国的なクラス発想の富裕層ビジネスといえるが、モノというかプロダクトの価値は物理的なそれだけじゃない部分がデカいことを、よく示す例かもしれない。バッテリー? もちろん中国製で誰も驚かないでしょ?