ディーゼル×4WDのアウディA5スポーツバック40TDIクワトロで長距離試乗750km
EV化に向けて邁進中のアウディのラインナップの中で、旧商品群に属するのが5ドアセダンの「A5スポーツバック」。ディーゼルターボ×クワトロ(4WD)で冬の長野まで長距離試乗しましたが、やはりと言うべきか、熟成きわまるパワートレインの信頼性と運転しやすさには改めて感銘を受けたのでした。国産メーカーの開発ドライバー出身という異色の経歴のモータージャーナリストがレポートします。
EV化を巡る欧州メーカーの混迷はまだまだ続く
欧州の自動車メーカーも大変そうだ。欧州グリーンディール政策に翻弄されながら、中国や北米の動向を睨みつつ、経営資源を何に集中させるべきか、難しい選択を迫られ続けている。しかも、ある程度想像されていたことではあったが、ここにきてEV、FCVに加えてe-FUELを使うICE(HEV、PHEVを含む)に限っては、2035年以降も新車販売が可能になることが、ほぼ確実になってきた。
ただ、そのe-FUELは現状では製造コストがきわめて高いとされることから、ユーザーサイドとしても手放しで喜んでばかりはいられず、混迷はしばらく続きそうだ。
アウディは明確な電動化戦略を打ち出しており、今後2025年までに20車種以上の新型車を投入し、そのうち10車種以上がEVだと明言している。はたして、その戦略にも影響を与えることになるのかどうか……。
モデル末期(?)のA5スポーツバックに改めて乗ってみた
そうした中でいえば、このアウディ「A5スポーツバック」は、それこそ旧商品群における1台というべきもの。A5としては2016年に2代目へとモデルチェンジされ、2021年にビッグマイナーチェンジともいうべき大幅な改良を施されたモデルだが、2代目として7年目に突入しており、モデルチェンジスパンの長い欧州車にあっても、そろそろモデル末期かと考えるのが普通だろう。
しかも、今回の車両は「40TDI」というディーゼルエンジン搭載モデル。アウディジャパンは、例のVWによるディーゼルゲート事件もあったせいか、ディーゼルの日本導入にはドイツプラミアムブランドの中でも慎重な姿勢だったので、A5ではこのマイナーチェンジモデルを機に用意されたほど。40TDIは2Lのターボディーゼルで、最高出力190ps、最大トルク400Nmを発生し、クワトロ(4WD)に搭載される仕様だ。
MHEVくらいは今どき、あった方がうれしい
この冬に雪の中の白骨温泉(長野県)に寄りがてら、蓼科まで出かけてきたところ、旧知たるパワートレインの走りの在り方が、なんともとても心地よかった。ちなみに装着スタッドレスタイヤは、標準装着の245/40R18から1インチダウンの225/50R17(外径はほぼ同一)が装着されていた。銘柄はミシュランの最新スタッドレスX-ICE SNOWであった。
このA5スポーツバックの広報車には、ふだんはオプションの235/35R19サイズが装着されているので、その姿を知る身にとっては、アピアランス的にはいささか貧相な足腰に見えてしまう感は拭えない。ありていに言えば、カッコでは明らかにマイナスである。
さらに、このクルマに関しては、いろいろと説明が必要そうだ。まず意外だったのは、35TDI(FFモデル)は12VのMHEV(マイルドハイブリッド)が与えられたのに対して、クワトロの40TDIはMHEVではなかったこと。エンジンの世代の違いということなのだが、じつは2022モデルから、40TDIもMHEVとなったそう。つまり、2021年モデルのこの試乗車はMHEVではなかったが、現在販売されている40TDIはMHEVに変わっているということになる。
それでも、都内の早朝の気温が5℃以下といった中での始動直後の冷間時でも、アイドリングストップ機能は、エンジン始動直後からものの数百m進んだ交差点でも即座にエンジンを停止させる。これで排ガス浄化用の触媒は問題なく働くのか、と余計な心配もしたくなるのと同時に、再始動時にはいかにもディーゼルらしい強い爆発力を感じさせる振動と音を発することから、やはり今どきはMHEVであってほしい、と思うのだった。
Sトロニックのリズミカルな変速で快適な高速クルーズ
組み合わされるトランスミッションは、アウディではSトロニックと呼ぶ7速デュアルクラッチトランスミッションで、それこそシームレスな走りの「e-tron」などとは対照的な、ダイレクトでリズミカルな変速感を携える。そのうえ、段差乗り越えが求められるような状況での発進でも、アクセルを深く踏む事なくエンジンの発生トルクとうまく連携させながら穏やかにスムーズに動き出せるあたり、下手なATを上回る扱いやすさ、安心感を備えていた。
これは滑りやすい雪道での発進でも同じ。微妙なアクセルワークに対する追従性を感じさせる一方で、アウディの真骨頂ともいうべきクワトロが、上り勾配からの発進でも、しっかりと後輪側からの押し出しを感じさせ、頼もしくて安心感あるスタートが可能だ。
ちなみに、クワトロに関しても、このマイナーチェンジモデルより、エンジンとの組み合わせにより2種の方式を使い分けるようになっている。従来からのセンターデフを持つフルタイム4WDタイプに加えて、センターデフの代わりにトランスミッションの出力側にマルチプレートによるAWDクラッチを備え、一般路や高速道路においても定常走行に近いような状況では、AWDクラッチがプロペラシャフトを切り離すように働き、完全な前輪駆動で走行するオンデマンドタイプも採用されている。
前者はこの40TDIと、3LのV6ガソリンエンジンを搭載する55に採用。さらにスポーツモデルのS5やRS5も当然このタイプだ。一方、2Lガソリンエンジン搭載の45TFSIのクワトロには後者を採用している。
元来の直進安定性の良さもあり、見た目には頼りなげにも思える標準サイズより1インチダウンのスタッドレスタイヤでも、高速道路における高い直進性は変わらず、リラックスしたクルージングが可能だった。とくに非積雪地に住むドライバーにとっては、この積雪地域までの移動区間の安心感も重要な点だ。
雪上でもしっかり操舵できる熟練の走り
クワトロの雪の中での走りだが、ここはアウディの4WDの経験を感じさせるところとなった。まず雪上での発進で、わざとアクセルの初期の踏み込みを強くしても、ほとんど前輪のスリップを感知させることなく後ろから押し出してくる感覚の動きとなり、そのまま蹴り出すように車速をラクに高めていく。
超低ミューの上り勾配などでは、スムーズに動き出せるかの勝負は最初のひと転がりにあるので、前輪の空転感なくすんなりと動き出せるのは心強い。
幹線道路から白骨温泉へと向かう冬の道は、とくに勾配と凍結で厳しいことが多いものだが、ドライバー的にはまったく不安を感じることなく、またDCTによるステップシフトもスムーズで、思ったままの加速度、そして減速感が得られることから、リズミカルなドライビングが堪能できて心地よかった。
雪上ハンドリングに関しては、操舵初期の応答感にも手応えが確かで、そのあとの旋回性と安定感のバランスにも唸らされる。軌跡が膨らみそうになるような際のESCの介入も違和感を抱かせない。このため、ホワイトアウトで視界がほとんど得られないような中で走らざるを得なかったときも、コーナーが思っていたよりもRがキツいとか、突然目の前に障害物が現れるといったときでも、ステアリングの頼れる効きで回避したり、その後の姿勢の安定性の高さで、過度の緊張感を強いられることがなくドライビングに集中できた。
この車両にはオプションのダンピングコントロールスポーツサスペンションが与えられていたが、これが日常域や高速巡航での締まり感がありながらも優しい入力感と、姿勢変化の抑えの効いた動きをもたらしていた。
ディーゼルの燃費のよさも捨てがたい
ディーゼルエンジンに関しては、なにかと厳しい目が向けられることも多いが、排気量に対して高いトルク性能は魅力だし、そのトルクを強みに高速クルージングがごく低回転で可能(100km/hは7速で1300rpm強)なこと、余裕の動力性能に対しての燃費性能の高さなど、いまもって捨てがたい。
燃費の話をしてしまうと、今回は助手席に体重100kg超えの編集者を乗せながら、猛吹雪や厚く雪が積もった雪による走行抵抗の大きなワインディング、さらに長時間のアイドリングなどの悪条件も含めた計約750kmで、実燃費で17km/Lをわずかに切るあたりだった。ドライバーからすると、今回の走行条件、さらに走りの性能や快適性からして、十分に満足のいく数値だと思える。
ミシュランのスタッドレスX-ICE SNOWの性能も特筆もの
この機会なので、今回装着されていたミシュランのX-ICE SNOWの性能にも触れておきたいが、これは少なくとも北関東や信州レベルの雪路の中では、きわめて好ましい特性を示した。とくに、従来よりも溝面積を増やしているという、近年のスタッドレスタイヤでは珍しい在り方は、雪でのグリップ感が本当にしっかりと得られる。さらにシャーベットやザクザクと硬い雪面でも、面に乗っかっていってしまい姿勢を乱すようなことが少なく、雪路に慣れていないようなドライバーにも優しい特性を備えているのだった。SNOWの名を与えているだけのことはある。
溝面積を増やしているのに、ミシュランはアイス性能も向上させたとしているのは、ちょっと信じがたいのだが、今冬に某国産タイヤメーカーのスタッドレスタイヤの開発者とこのX-ICE SNOWの話に及んだとき、「ミシュランは何か技術的なブレークスルーを見い出したかもしれない」と、その性能を讃えていたので、このタイヤは注目である。
とくに今回のアウディA5スポーツバックでは、雪路では接地荷重面で有利な1インチダウンの細いサイズが装着されていたことも、印象をよくした要因だったと思う。見た目にはマイナスなインチダウンだが、フェンダー内のタイヤとの間隙も広くなり、フェンダー内が雪詰まりしにくいなど、メリットも多いのだった。
「ひと世代前」ならではの完成度を享受するなら今のうち
と、装着タイヤも関連して、走りにおいてはドライ路面から雪道まで満足度の高いもので、クーペボディの低い重心高による安定性の高さ、しなやかなで正確性の高いハンドリングなどは、完成度の高さを感じさせた。そのうえで、パッケージングでも奥行きある広いラゲッジスペースを備えるなど、実用面でのバランスも高い。
インフォテイメント系は新世代のMIB3に進化させつつも、空調関係やドライビングモードなどは、運転中にも操作しやすい物理スイッチが配置されている。好ましいと思う一方で、インパネまわりは見た目では、ひと世代前の感を与えられる人もいることだろう。
ある意味、今となってはメカメカしくも思える全体のこれら在り方が、なじみやすさと雪道でもしっくりとくる乗り味、そしてドライビングの心地よさを生み出しているように感じた。