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「1600GT」で絶対王者になったトヨタ!「コロナ」を破ってレースも市場も席巻したスポーツクーペとは【国産名車グラフィティ】

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TEXT: 片岡英明  PHOTO: 木村博道/AUTO MESSE WEB編集部

ヤマハ発動機の技術を使いDOHC化のみならず内部まで刷新

トヨタ1600GTは、兄貴分のトヨタ2000GTと同じようにモータースポーツの世界で鍛えられ、市販に移された。チーム・トヨタを率い、のちにグループ7のトヨタ7を生み出す河野二郎は、トヨタ2000GTと並行してコロナのハードトップ1600S(RT51)をベースにコロナXプロトタイプを開発している。パートナーに抜擢したのは、オートバイの分野で技術の高さを知られているヤマハ発動機だ。

ヤマハが担当したのは、パワーユニットの設計と製造である。耐久性に優れたOHV方式の4R型エンジンを使い、高回転でもバルブの追従性を高めるためにカムシャフトを2本に増やし、吸気バルブと排気バルブを開閉するDOHCにモデファイした。ツインカムとも呼ばれるDOHC方式は、バルブ配置やバルブ数の設計自由度が高くなり、燃焼効率も大幅に高められる。

トヨタ2000GTの3M型直列6気筒DOHCと同様に、ベースエンジンのヘッド部分をDOHC化して高性能化を計ったのだ。OHVエンジンのシリンダーブロックを使っているためカムシャフトをシリンダーヘッドの上部横に置き、タイミングチェーンも組み込んでいる。

シリンダーヘッドは3M型と同じようにアルミ合金製で、燃焼室形状は半球形だ。ピストンはバルブとの干渉を避けるためにヘッドの頂部に逃げ(リセス)を取り、オイル上がりを防ぐためにピストンリングには3本のオイルリングを組み合わせた。

クランクシャフトも強化しているが、メインベアリングは3点支持のまま変えていない。耐久性を心配する声もあったが、極限までチューニングしてもタフだった。オイルパンは容量を増やし、冷却性向上のためにフィンを切っている。これは軽量なアルミの鋳造品だ。また、コーナーでオイルが偏らないように内部にバッフルプレートを設けた。

サーキット走行を意識して、オイルクーラーを取り付けるための配管ボスも最初から装着されている。ちなみに最初の試作車は、ハードトップではなくコロナ1500セダンのボディを使い、テストを行った。

鮮烈なレースデビューを飾るのは1966年3月27日だ。晴れの舞台は、国際公認レーシングコースの認可を取り、1月に開業したばかりの静岡県・富士スピードウェイである。トヨタはセミワークスの自販チームではなく、トヨタ自工直轄のチームトヨタの名でエントリーを済ませた。記した車名はトヨタ「RTX」だ。

プロトタイプ・レーシングカーとしての出場だったが、エンジンルームを覗き込んだレース関係者は思わず息を飲んだ。精緻な1.6LのDOHCユニットが収められていたからである。2台のトヨタRTXは予選から速い走りを披露した。

レース本番では2Lエンジンを積むフェアレディSPのプロトタイプを退け、細谷四方洋がデビューウィンを飾っている。福沢幸雄も2位に食い込むなど、完勝だった。そして精力的に熟成に努め、1967年8月に発売されている。型式はRT55、正式車名は「トヨタ1600GT」だ。4速MT車がGT4、5速MT車はGT5と名乗っている。

モータースポーツシーンでの強さを支える装備とエンジン

トヨタ1600GTはネーミングからもわかるように、トヨタ2000GTの弟分として企画され、送り出された。ボディやフレームなどは、アローラインのコロナ2ドアハードトップからの流用だ。エクステリアで大きく変わるところはない。フロントマスクを精悍なブラックフェイスとし、中央には逆三角形の専用エンブレムを装着する。

また、リアピラーにもトヨタ2000GTのデザインを模した逆三角形の1600GTエンブレムが誇らしげに付いている。高性能エンジンを積んでいることを垣間見せるのは、フロントフェンダーに設けられたルーバーだ。スリットを刻んだブラックのルーバーにクロームメッキの縁取りを加え、コロナとの違いを明らかにしている。言うまでもなく、このルーバーはエンジンからの熱を逃がすために新設されたものだ。

このほかブラックにメッキの砲弾型ミラーを装着。タイヤは高速走行に適したものだが、6.45S‒14‒4PRだから迫力はない。ちょっと見ただけでは普通のコロナで、まさに羊の皮を被った狼だったのである。

サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン/コイルスプリング、リアはリーフスプリングによるリジッドアクスルだ。平凡なレイアウトだが、ハードに締め上げられ、スタビライザーやトルクロッドを加えている。ブレーキ系も強化し、フロントにはサーボアシスト付きディスクブレーキを採用した。

注目のパワーユニットは、ボアとストロークは4R型エンジンと同じだが、ヘッド部分をDOHC化し、燃焼室などを変えた9R型直列4気筒を搭載する。排気量は1587ccで、これにツインチョーク・ソレックス40PHHキャブレターを2基装着した。最高出力は110ps/6200rpm、最大トルクは14.0kgm/5000rpmだ。

トランスミッションはクロスレシオの4速MTとトヨタ2000GTと同じギア比の5速MTを設定する。リミテッドスリップデフを標準装備し、ファイナルギアなどはオプションで用意された。最高速度は1600Sより15km/hアップして175km/hをマークする。0-400m加速タイムは17.3秒だ。

1600GT4は96万円、GT5は100万円の販売価格だった。珍しさも手伝って5速MTのGT5に目がいくが、実力を引き出しやすかったのはGT4の方である。

インテリアはトヨタ2000GTに似せた形状のバケットタイプのスポーツシートやウッド調リムの3本スポークステアリングを採用し、スポーティにしつらえた。スピードメーターは200km/h、隣のタコメーターは9000rpmまで目盛られている。レッドゾーンは7000rpmからだ。

トヨタ1600GTは、サーキットで常勝を誇り、排気量が大きいS54型スカイライン2000GT-Bを実力で王座から引きずり下ろし、引退に追いやった。また、GT-Rの初陣となった1969年5月のJAFグランプリTSレースでも王者の走りを披露。隠れた名車としてRT55の名で愛されたのが、トヨタ1600GTなのである。

トヨタ1600GT(RT55-M)
●年式:1967
●全長×全幅×全高:4125mm×1565mm×1375mm
●ホイールベース:2420mm
●車両重量:1035kg
●エンジン:9R型直4DOHC
●総排気量:1587cc
●最高出力:110ps/6200rpm
●最大トルク:14.0kgm/5000rpm
●変速機:5速MT
●サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン/リジッド半楕円リーフ
●ブレーキ(前/後):ディスク/リーディングトレーリング
●タイヤ:6.45S-14-4PR

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