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ボディコンがあだになった!? 日産「バイオレット」が名車になれなかった理由を解説します【国産名車グラフィティ】

SSS系は、4輪独立のハイスピードサスペンション(H.S.S.)機構を採用。ホイールキャップでなくリングを装着する。プロペラシャフトは静粛性を向上させるため3ジョイント式だった

BC戦争に勝つためにブルーバードの後方支援として投入!

日産のファミリーカー・ラインナップを強化するために開発されたバイオレット。流麗なプレスラインやシャープなウインドウグラフィック、最先端デザインをふんだんに採用する。インジェクションなど最新技術も投入されたが、決して成功とは言えない悲運のクルマでもあった。

時代の最先端技術と手法を駆使したボディコンシャス・フォルム

昭和の日本を代表するオーナーカーと言えば、日産のブルーバードとトヨタのコロナだった。両車は常にベストセラーカーの座をかけて競い合い、BC戦争とも表現された。

なかでも3代目P510型ブルーバードは、日本だけでなく海外でも大ヒットした。また、モータースポーツの世界でもダットサンの名声を世界に轟かせている。

その後継モデルとなるのが、1971年登場の4代目P610型ブルーバードUだ。モデルチェンジにより車格を上げたことによって、コロナではなくその上位モデルのコロナ・マークIIとも競合するようになる。

ところが、日産の車種ラインナップで、ブルーバードのひとつ下のクラスにいるサニーとのギャップは大きく広がってしまった。

また、P510型ブルーバードに乗っていたユーザーからは、ジャストサイズのファミリーカーが欲しい、との声が上がってくるようになっていったのである。

そこで510型ブルーバードが抜けた穴を埋めるために、同じ性格のファミリーカーを開発。それが1973年(昭和48年)1月に日産のニューフェイスとして送り出したP710型「バイオレット」だ。ボディバリエーションは2ドアと4ドアのセダン、そしてパーソナル感覚を強く打ち出した2ドアハードトップの3タイプを設定。510型ブルーバードはセンターピラー付きのクーペだったが、バイオレットはピラーレスのハードトップを採用する。

シングルキャブレターのファミリー系グレードは、デラックスと快適装備を充実させたGLを設定。スポーティグレードは、ブルーバードの伝統となっているスリーエス(SSS=スーパースポーツセダン)を名乗っている。SSSに加え、先進的なSSS-Eも用意された。

1970年代の日本車に共通する特徴は、エクステリアとインテリアにファッショナブルで軽量な樹脂を多用していることである。このころは豪華装備を競うようになり、ボディも肥大化して重量が増えることに、エンジニアたちは悩んでいた。その悩みを解消するのが樹脂パーツだった。

だが、日産の期待を一身に集めて颯爽とデビューしたバイオレットは、時代の波に翻弄された。時代の先端を行く凝ったデザインは、自動車を道具として使うプロの目からは異端と見られ、失敗作の烙印を押されてしまうのである。とくに4ドアセダンは苦杯を舐めさせられた。

また、排ガス規制は織り込み済みだったが、販売が軌道に乗り始めたときにオイルショックが起き、一気にガソリンが高騰。排ガスをクリーンにしながら、燃費の低減に取り組むことも強いられた。このように悲運に泣かされたが、果敢なチャレンジはのちに日産の財産になる。

気筒ごとの燃料噴射による高度な燃焼制御を実現

パワーユニットは、日産の主力となっているL型系列の直列4気筒SOHCで、1.4LのL14型と1.6LのL16型の2種類を設定した。

L14型エンジンは510型ブルーバードに積まれてデビューし、B210型サニーにも搭載。きめ細かい改良を何度も行ってきているため、すでに熟成の域に達し、信頼性は高い。ボア×ストロークは、83.0mm×66.0mmで総排気量は1428ccだ。ウエッジ形燃焼室を採用し、バルブはカウンターフロー配置となっている。基本的にはサニー・エクセレント用と同タイプだが、バイオレットではL16型の1.6Lが主役だったため、L14型のツインキャブ仕様は設定されなかった。

L16型エンジンは、L14型エンジンのストロークを73.7mmまで拡大し、1595ccの排気量としている。ちなみに、S30型フェアレディ240ZのL24型エンジンは、L16型エンジンのピストンなどを使って6気筒エンジンに仕立てたものだ。どちらも絶妙なバランスを持つエンジンである。

L16型には、シングルキャブ仕様とSUツインキャブ仕様に加え、時代の先端を行く電子制御燃料噴射装置のEGI仕様を用意している。L16型ツインキャブ仕様の最高出力105ps/6200rpmに対し、EGI装着のL16E型エンジンは115ps/6200rpmを発揮。最大トルクも13.8kgmに対して14.6kgmと太い。

1975年9月、SSS-Eに積まれているL16E型エンジンは、昭和50年排ガス規制をクリア。触媒コンバーターを装着しているが、EGRも二次空気供給装置も必要としないほど余裕で排ガス規制をパスした。

トランスミッションは、4速MTと5速MT、そしてニッサンマチックと呼ぶ3速ATを用意している。SSS系に設定された5速MTは、ブルーバードと同じようにポルシェタイプだ。

サスペンションは、フロントが全車ストラット。リアはファミリー系がリーフスプリングのリジッドアクスルで、SSS系は強化スプリングを採用するセミトレーリングアームの独立懸架の2タイプを設定する。

日産は、バイオレットでもブルーバードのようにモータースポーツに挑戦した。だが、国際ラリーの主役はブルーバードUとフェアレディ240Z。排ガス対策を理由にワークス活動を休止したこともあり、バイオレットが参戦したのは一部のイベントだけにとどまっている。

しかし、1977年の第12回サザンクロスラリーでは、輸出名「ダットサン160J」でエントリーし、過酷なオーストラリアの悪路をハイスピードで駆け抜け、総合優勝を飾るという華々しい活躍を演じている。このマシンのエンジンはラリー用に開発したスペシャルヘッドのLZ18型で、1.8L直列4気筒DOHC4バルブだった。

また、サーキットでは1974年9月にマレーシアのセランゴール・グランプリに参戦。2Lに拡大した400psを発生するL18改直列4気筒ターボを搭載したバイオレットを持ち込み、高橋国光が堂々の優勝を飾ったのである。

斬新なキャラクターラインや細部までの造り込みで誰もを魅了するスタイルだったが……

エクステリアは、ウエービングしたラインと柔らかい面で構成され、セダンであっても若さみなぎるデザインだ。ストリームラインと名付けられた、うねった動きのあるプレスラインが特徴的で、ウェーブの効いたウエストラインを描いている。

フロントマスクは、深いコーンの中にデュアルの丸型ヘッドライトを埋め込んだデザイン。ヘッドライト周辺からグリルまで樹脂で成形しているため、立体感が際立つ形状を実現している。バンパーは両端を引き上げた形状で、突き出したフェンダーとの一体感が強調されている。

セダンはセミファストバックのシルエットが新鮮。だが、運転席からの視界が良好だった510ブルーバードから乗り換えたタクシードライバーから後方視界の悪さを指摘され、運転に気を遣うという不満が出ていた。

そこで1976年2月、セダンは大手術を敢行。平凡なノッチバックスタイルに生まれ変わった。 ハードトップは、ドアから後方をファストバックとし、ブルーバードUやC110型スカイライン(ケンメリ)などと同じ手法の切れ上がったウインドウグラフィックとなった。また、リアウインドウに逆Rガラスを採用し、ルーフからトランクリッドへのラインをつなげ、美しさとともに個性を打ち出した。リアコンビネーションランプはL字型で、ガーニッシュを挟み込んでいる。

インテリアは、B210型サニーに似たデザインテイストで、プラスチックも積極的に採用。ダッシュボードは水平基調で広がり感を強調している。メーターパネルはダッシュボード中央まで占領し、運転席正面には大型の丸型3眼メーターが並ぶ。

主力グレードは、3眼メーターの右が燃料計と水温計を並べたコンビネーション、中央がスピードメーターで、左端がタコメーターだ。チャージランプとオイル、パーキングブレーキの3つの警告灯は、その中に組み込んでいる。廉価グレードや商用のバンはタコメーターを省いているが、3眼メーターとなる。

ヘッドライトなどのスイッチは1本のレバーにまとめられ、ステアリングから手を離すことなく操作できるようになった。安全装備を充実させたことにも注目。だが、GLでも運転席と助手席のシートベルトは3点式ではなく2点式と、詰めの甘さも見られた。スポーティな走りを実現するが、名車になれなかった悲運のパーソナルセダンとクーペだ。

バイオレット ハードトップ 1600SSS-E(KP710)
●年式:1973
●全長×全幅×全高:4120mm×1580mm×1375mm
●ホイールベース:2450mm
●トレッド(F/ R):1310/1320mm
●車両重量:1005kg
●エンジン:L16E型直4SOHC+EGI
●総排気量:1595cc
●最高出力:115ps/6200rpm
●最大トルク:14.6kgm(143Nm)/4400rpm
●変速機:5速MT
●駆動方式:FR
●サスペンション(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
●ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
●タイヤ:6.45S-13-4PR

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