名機1.6L直4DOHCエンジン「2T-G」を搭載
セリカやカリーナといった上位モデルが採用する名機2T-G型1.6Lをコンパクトなボディに搭載。締め上げられたサスペンション、パワフルなエンジンによる走りは、まさにスパルタンだ。硬派なスポーツモデルは、レビンとトレノという兄弟車それぞれで個性を放っていたのである。
上位モデルの心臓を譲り受けたライトウエイトスポーツ兄弟
軽量コンパクトなボディに、パワフルな大排気量エンジンを搭載し、バカっ速い走りのクルマに仕立てる。これは昔からライトウエイトスポーツを誕生させる常套手段だった。その代表といえば、レースでも活躍したコルティナ・ロータスだ。日本車のなかで探すと、誰もが認めるのは2代目のカローラとスプリンターから生まれたレビンとトレノだろう。
1966(昭和41)年10月、サニーより半年遅れて登場した初代カローラは、瞬く間にベストセラーカーの座を手中に収めた。1968年春にクーペボディのカローラ スプリンターを加えてからは販売に弾みがつき、1970年3月には発売から3年5カ月にして100万台目をラインオフしている。もちろん、日本車としてはミリオンセラーの最短記録だ。
記録を更新し続けたカローラは、1970年5月に初めてのモデルチェンジを敢行。ボディはひとまわり大きくなり、ホイールベースも50mm延ばしたため押し出しは強くなる。販売の主力となっている2ドアと4ドアのセダンのほか、スタイリッシュな2ドアクーペも誕生した。カローラスプリンターはよりスポーティな方向に振られ、走りのよさをアピールする。9月に追加した1400シリーズは、新設計のT型直列4気筒OHVが軽やかに回るので気持ちよさが際立った。
1971年4月、カローラとカローラスプリンターにスポーティ色を強めた1400SRを設定する。インテリアを黒一色とし、SUタイプのツインキャブレターで武装したT型OHVエンジンには、クラス初の5速MTを組み合わせた。また、サスペンションもハードに引き締めている。
そして8月には初のマイナーチェンジを実施した。このタイミングでスプリンターは、カローラのネーミングを外して独立。トヨタオート店の専売モデルとなり、クーペに加えてセダンシリーズが誕生する。
トヨタは1970年秋にセリカ1600GTとカリーナ1600GTに、1588ccの2T-G型直列4気筒DOHCを搭載し送り出した。この高性能パワーユニットを軽量コンパクトなカローラとスプリンターに移植すれば、驚くほど刺激的なスパルタンモデルが誕生する。そう、カローラレビンとスプリンタートレノを生み出すお膳立ては整った。
1972年3月にベールを脱いだのは、カローラとスプリンターのクーペをベースに、パワフルなエンジンを積んだ硬派モデル。型式は「TE27」。カローラはレビン、兄弟車のスプリンターはトレノというネーミングが与えられた。速く走るためにDOHCエンジンが搭載され、サスペンションもハードに締め上げられている。また、エクステリアとインテリアにも手を加え、走りの機能を重視した精悍なデザインとしている。
前後の意匠違いのみならず全長も車重も異なる兄弟車
カローラレビンとスプリンタートレノは、意識してデザインを変えている。
デビュー当初のレビンは、水平基調のフロントマスクが特徴だ。長方形で囲んだメッキグリルのなかは縦ストライプの櫛形デザインで、縁取りした丸型2灯式ヘッドライトの外側に付くウインカーランプは縦型配置だった。リアコンビネーションランプは横長のスマートなものが付く。一方、トレノは六角形モチーフのグリルを十字に切り、縦スリットを入れている。リアはブロック型のランプを2つ並べたデザインだった。
母体のカローラとスプリンターは登場から5カ月後にマイナーチェンジを実施した。レビンとトレノもフェイスリフトを受け、化粧直しを行っている。
レビンはヘッドライトの外側にスリットを刻み、逆台形の枠に格子のグリルとした。カローラのエンブレムも中央に移され、デザインも変えられている。横長のリアコンビネーションランプは、内側のバックランプにメッキの縁取りを加えた。ウインカーランプは視認性を高めるために外側へと移されている。
トレノは、台形のハニカムグリルを採用し、ライトまわりの縁取りも変更。リアコンビネーションランプも外側が上下分割タイプとなり、下段がウインカーとなる。レビンとトレノはフロントマスクやリアコンビネーションランプなどが異なるだけでなく、ボンネットとフロントフェンダーも別物だ。ボンネット後ろの外気導入用エアダクト裏のスリットもレビンは縦線、トレノは横線と差別化している。
全長はレビンが3955mm、トレノは15mm長い3970mmだ。車両重量も微妙に異なり、レビンは855kgだが、トレノはこれより10kg重い865kg。レビンのボディカラーは、新たにモンテローザオレンジと濃いグリーンのインデアナポリスオリーブを設定した。トレノは、ヘイトアッシュベリーオレンジとデイトナオリーブの2色だ。
最後のバリエーション追加は1973年4月。2T-B型直列4気筒OHVエンジンにSUツインキャブのレビンJとトレノJを設定。「J」はジュニアの略だが、オーバーフェンダーは受け継いだ。
このときからオーバーフェンダーはスチール製になり、わずかだがデザインも変わった。排ガス規制が迫ってくる時代に「ニーナナ」の愛称で親しまれたレビンとトレノは、パンチの効いた痛快な走りを楽しませてくれたのである。また、ラリーやレースなどのモータースポーツでも大暴れした。チューナーたちからも持てはやされ、オーバーサイズのピストンなどが登場する。
ヤマハとの共同開発でOHVをDOHC化しピストンには最新素材を投入
燃料供給がキャブレターの時代、2本のカムシャフトで吸気バルブと排気バルブを開閉する「DOHC」エンジンは特別な価値と魅力を持っていた。それはレーシングエンジン直系の高性能ユニットだからだ。燃焼効率を高めるために精緻なメカニズムを奢り、高回転まで気持ちよく回る。「カムに乗る」と表現される、パワーが盛り上がる回転域のエンジン音も心地よかった。
トヨタはOHVとSOHCエンジンをベースに、ヘッドまわりを設計し直してDOHC化するのが得意だ。2T-G型直列4気筒DOHCユニットもT型直列4気筒OHVをベースに開発。これ以降、トヨタはDOHCエンジンに「G」のアルファベットを加え、高性能とプレミアム性を強くアピールするようになる。
トヨタ2000GTの3M型直列6気筒DOHCがそうであったように、2T-G型はヤマハが改造とチューニングを行ったDOHCユニットだ。ボア85.0mm、ストローク70.0mmで、総排気量は1588ccになる。シリンダーブロックはT型エンジンと同じ鋳鉄製で、ディープスカート方式だ。ボアの間には冷却水路を設け、冷却効果を高めている。
シリンダーヘッドはアルミ合金製だ。燃焼室は半球形で、その頂点に点火プラグをセットしている。温度変化による歪みをなくすため、時代に先駆けて鋼板製のストラットを鋳込んだピストンを採用しているのも特徴のひとつだ。高い強度を保ち、摩耗損失や焼きつきが防げる。
バルブ挟み角は66度で、浅いドーム状のクロスフロー吸・排気システムを組み合わせた。バルブ径は吸気側が43mmφ、排気側は37mmφだ。クランクシャフトは4バランスウエイトの5ベアリング支持である。
燃料供給は、特性を知り尽くしたソレックス40PHHキャブを採用し、2連装した。2種類のチューニングがあり、プレミアムガソリン仕様は圧縮比を9.8とし、最高出力115ps/6400rpmを発生。最大トルクは14.5kgm/5200rpmだ。パワーウエイトレシオは7.43kgm/ps(レビン)になる。
トランスミッションは、クロスレシオの5速MTのみの設定とした。最高速度は190km/hをマークし、0-400m加速は16.3秒の俊足だ。圧縮比を8.8に下げたレギュラーガソリン仕様の2T-GR型は、最高出力110ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4800rpmのスペックだった。
サスペンションはベースモデルと形式は変わらない。フロントはストラット式で、コイルスプリングを組み合わせている。リアはオーソドックスな半楕円リーフスプリングによるリジッドアクスルだ。前後ともハードに締め上げ、スタビライザーも他のグレードが19mmφであるのに対し、レビンとトレノは21mmφの大径タイプとなっている。
ステアリングギアは素直な操舵フィールのボール循環式だが、16.1のクイックなギア比とした。軽量ボ
ディに短いホイールベース、そしてパワフルなエンジンだからキレのいいシャープな走りを見せ、豪快なド
リフトに持ち込むのもたやすい。その反面、じゃじゃ馬だった。
トヨタ史上初のオーバーフェンダー装着モデル
標準グレードとレビン/トレノをエクステリアで瞬時に識別できるのが、4輪に配したリベット留めのFRP製オーバーフェンダーだ。これはモータースポーツの世界で生まれた代物で、ワイドタイヤを履いてもフェンダーに当たらないようにと、叩いて膨らませたり、フェンダーアーチをカットして拡大。それに沿って樹脂製のカバーを被せたりしたのである。
この時代、日本車でオーバーフェンダー装着車は少数派だった。2ドアのスカイラインGT-Rに装着したのが最初である。初めて4輪すべてに被せたのはフェアレディ240ZG。これに続くのがTE27レビンとトレノで、トヨタでは初採用だ。
標準モデルと全長は同じだが、1400SRより全幅は90mmも広げられ、1595mmとなっている。また、タイヤとホイールのサイズも変えられた。SRは4.5Jのホイールに155SR13サイズのラジアルを組み合わせている。一方、レビンとトレノは、5Jのセンターキャップ付きホイールに175/70HR13の偏平ワイドタイヤを履いていた。
インテリアの基本は、カローラもスプリンターも同じである。ブラックに統一されスパルタンなムードを作り出した。ドライバーの前には3眼メーターが配され、その左側に3つの補助メーターを並べている。ステアリングは本革巻きのスポーティな3本スポークタイプだ。
視認性のよい3眼メーターは、左側にフルスケール200km/hのスピードメーターを採用。100km/hから上にイエローラインを引き、150km/hから先はレッドラインとなっている。交通事故死の多い時代だったので、メーター表示を工夫して警告を与えていたのだ。
右側には8000rpm表示のタコメーターをセットした。6500rpmからイエローゾーン、7000rpm以上をレッドゾーンとしている。中央には小ぶりな燃料計と水温計を配置。ダッシュボード中央には電流計、油温計、油圧計の3連メーターを装備する。ラジオなどのオーディオはオプション扱いだった。フロントシートは、ヘッドレストと一体型のサイドサポート付きハイバックシートを標準装備する。
このように装備面でもスポーツマインドを満足させるのはもちろん、乗って楽しいライトウエイトスポーツ、それがTE27だ。
カローラ レビン(TE27)
●年式:1972
●全長×全幅×全高:3955mm(3970mm)×1595mm×1335mm
●ホイールベース:2335mm
●車両重量:855(865)kg
●エンジン:2T-G型直列4気筒DOHC
●総排気量:1588cc
●最高出力:115ps/6400rpm
●最大トルク:14.5kgm/5200rpm
●変速機:5速MT
●サスペンション(F/R):ストラット/リーフスプリング
●ブレーキ(F/R):ディスク/リーディングトレーリング
●タイヤ:175/70HR13
※( )内の数値はスプリンター トレノ