パワーを突き詰める時代に出会ったことが幸運であった
【1000馬力オーバーがあたりまえ】「R32 GT-R」で得たノウハウを「R33」にフィードバックしたガレージ八幡のチューニングモットーとは?が登場したころには移転して、看板があるショップらしい店舗での活動を開始。ネックとなっていたコンピュータのマッピングはロムライターやトレーサーをはじめ、解析ソフト一式をテクトムで手に入れて取り組む。「必要な道具があれば誰でもできる」という高校時代からの考えをコンピュータに関しても貫いていった。
「R32はエンジン内部とターボ本体は手を付けずに、インタークーラーや吸排気系、それにクラッチに手を入れた、ロムチューンのブーストアップ仕様のオーダーが殺到しました。あえて1.1kg/cm2でブーストが垂れるようにセッティングします。それで400psちょっと。必要にして十分なパワーです。欲張って1.3kg/cm2に上げると途端にセラミックのタービンブレードが割れてエンジンブローが勃発。うちは速さよりもトラブルを起こさないことを最優先にしています」
デモカーとして購入したR32は最終的には2.7Lまで排気量を上げてTD06-20G 8cm2のツインターボ仕様に仕立てた。ブースト1.7kg/cm2で700psぐらいの実力だ。
苦労したのはオイルポンプで、高回転を多用するとギアが割れてしまう。まさに致命的なトラブルだ。1年ぐらい対策を思案して巡り合ったのがATIのダンパープーリー。クランクプーリーをこれに換えることで振動が吸収されてオイルポンプが壊れなくなる。いまだにお守りのように使っているパーツだ。
点火時期の確認にも手を焼いた。理論上は最適なタイミングで点火させているが、実際にそれが正解かどうかはわからない。自分で納得できないと精度の高いセッティングは無理だ。燃料は空燃比計で把握できる。しかし点火はそうはいかない。
「エンジンをバラしてコンロッドのメタルの状態で判断していました。点火がズレて異常な力が加わったら表面に変化が表れますから。手間だったけれど、これで点火の正解が見えてきました。パワーアップとトラブル回避に大いに役立ったと思います」
登場間もないR33にノウハウを注ぎ込んでいく
R33は早々に新車で購入。大パワーがもてはやされて、チューニングが白熱していった過激な時代だ。森田代表はR32で苦労して身に付けたノウハウを余すことなく注ぎ込んでゼロヨン仕様を製作した。
HKSの87φピストンにキャリロのH断面コンロッドを使って2.7Lに排気量をアップ。カムはIN280度でEX290度のHKS製を使い、燃焼室やポートも抜かりなく手を入れる。ターボはGT3037Sツインで、エアフロをZ32用に換えてインジェクターは720ccにサイズアップ。それ以外にも純正の444ccインジェクター6本をAICでコントロールするツインインジェクターだ。こうすればメインコンピュータをイジらなくても燃料の微調整が行える。
燃料ポンプはボッシュ製の2機掛けでマフラーはオリジナルの100φチタン。インタークーラーもオリジナルだ。足はアペックスのN1ダンパーを加工してセットし、Hパターンのトラスト6速ドグミッションも装着した。
「この仕様で1000psオーバーの実力です。私がドライブしてゼロヨンではずいぶん勝たせてもらいました。コンスタントに9秒3が出て、そして壊れない。それが強さの秘密です。調子が良ければ9秒1がマークできますが、毎回は無理。コンマ3の余裕を持って挑むと精神的にもとっても楽に戦えます」
R32時代では試行錯誤を繰り返し、GT-Rに対するさまざまなノウハウを身に付けた。それをR33に注ぎ込み昇華させる。ゼロヨンが大流行だったことも追い風になり、思う存分パワーを引き出すことに専念できた。
「いいタイミングでR33に携われました。高校時代からずっと自己流でチューニングに取り組んできて『分解した手順を覚えておいて組み付ける』という考えでやってきました。ショップを始めても思いは一緒。その集大成がR33だったと実感しています。1000psオーバーに取り組めたのも、あの時代ならではの風潮で、最近はそれほどパワーは求めなくなった。それでも限界を極めたことで得たことはとてつもなく多い。いい時代を共に歩んだR33に運命さえも感じます」
現在の主流は500ps級のGT2860Rツインターボ仕様か、700ps級のT78シングルターボ仕様であり、意外にも高回転よりアイドリングから3000rpmの常用域の仕立て方だったりする。そんなメニューにもR33の技術がフィードバックされている。
(この記事は2021年12月1日発売のGT-R Magazine 162号に掲載した記事を元に再編集しています)