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【1000馬力オーバーがあたりまえ】「R32 GT-R」で得たノウハウを「R33」にフィードバックしたガレージ八幡のチューニングモットーとは?

ガレージ八幡のR33

森田代表が手掛けたR33GT-R

チューナーの心に残る厳選の1台を語る【ガレージ八幡 森田信之代表】

高校生のころから現在も行っている自己流のエンジンチューニング。感動したり、落ち込んだりを繰り返して身に付けたやり方が間違っていなかったと明らかにしてくれたクルマが今回紹介するR33GT-Rだ。

(初出:GT-R Magazine162号)

チューニングは仲間たちと部活のように学んでいった

手先の器用さを活用してプラモデル作りに熱中していた幼少期。塗り分けも細かく行って小学生とは思えない大人びた出来栄えだった。

「意外にも作っていたものはクルマではなく船でした。それも小さな部品がたくさんある戦艦が多かったですね。子供が買えるスケールのクルマのプラモデルはとっても大まかな作りなので物足りなかったんです」と当時を振り返る『ガレージ八幡』の森田信之代表。

船を選んだ理由はほかにもある。父親が船乗りだったことだ。遠方から名古屋港に届いた船便を、小分けにして近隣の港に運ぶという仕事をしていて、夏休みには父親の船に乗り込んで一カ月近く海上で生活した思い出がある。森田代表と船は特別な関係なのだ。

「その後、父親は海運業を辞めて自宅で旅館を営むようになり、そこの庭でもよく遊んでいました」

高校時代はバイクをいじり卒業後にスカイラインジャパンを手に入れる

高校時代はその庭で友達のモンキーのエンジンをバラしてボアアップキットやビッグバルブを取り付けていた。誰かに手順を教わるわけではなく、すべて自己流で行った。

「必要な道具があれば誰だってできますよ。バラした工程を覚えておけば、その逆に組めばいいんですからね。取り付けるパーツを、どの部品と交換するかは一目瞭然。少しも難しくなんかありません。プラモデル感覚で新品パーツのバリなどを取れば作業がスムーズにいくし、完成したエンジンの感触もいい。手間を惜しまないというか、工夫することが好きな性分なのです」

高校卒業後は実家の旅館を手伝っていた。忙しいのは週末だけなので、平日は行きつけのタイヤショップや土木作業のアルバイトをした。

卒業間もないころに手に入れたスカイライン・ジャパンが初めての愛車だ。バイト先のタイヤショップでHKSのL型エンジンのターボキットを取り寄せてもらい、庭で自ら装着。モンキーをイジっていた要領で行えば難なくできた。注意点はチューニング雑誌を参考にしたそうだ。

「当時はコンピュータはブラックボックスで、燃料や点火時期を思うように変更するなんて夢の話でした。燃料の微調整はサブインジェクターを使って行いました。それも専用のコントローラーなどはなくて、圧力スイッチを使って任意のブースト圧になったら噴射するようにしていきました。今から思えば呆れるほどアナログな手法です」

もちろん空燃比計などはなくて燃料の濃い薄いはエキマニに取り付けた排気温度計を使ったり、マフラーの黒煙を目安にしたりしていた。そして最終的には加速力の体感で判断。結果的にこれが一番確実だった。

庭先には仲間のクルマも集まってきた。誰もが見様見真似で愛車にターボを付けていく。一般の人には異様な光景だったはずだ。スカイラインやZのL型ばかりでなく2T-Gを載せたTE71レビンもやってきた。学校のクラブ活動のノリでみんなで協力しあって和気あいあいとチューニングを楽しんでいた。

「そのころからサブインジェクターを使わずにメインインジェクターで燃調を合わせられないものかと解決策を模索していました。見た目もスッキリして格好いいし、効率もよさそうだし。失敗も多かったけれど楽しかったですよ」

何もせずに大容量インジェクターを使えばカブってしまう。そこでエアフロメーターのフラップの動きを細工してカブらないようにしていった。さらに水温センサーに可変抵抗をかまして圧力スイッチと併用し、狙ったブースト圧で冷間時増量分の燃料が噴射する工夫も施した。

NAにターボをセットする場合は、デスビのガバナ進角を固定する加工も行う。過給圧がかかれば進角を抑えたほうが点火時期が適正になるからだ。こうしてコンピュータをイジらなくても何とか辻褄を合わせていった。

そんな時期を経て、昭和60(1985)年にガレージ八幡をオープン。庭先での作業も限界で、さらにショップにすればパーツが安く仕入れられるメリットもある。自宅の隣の看板も付いていない車庫に、知り合いから安く譲ってもらったシャーシダイナモを設置しての活動だ。ダイナモは現在のように負荷がかかるタイプでないのでセッティングには使えず、馬力を測ってチューニングの効果を確認することが主な役割だった。

パワーを突き詰める時代に出会ったことが幸運であった

【1000馬力オーバーがあたりまえ】「R32 GT-R」で得たノウハウを「R33」にフィードバックしたガレージ八幡のチューニングモットーとは?が登場したころには移転して、看板があるショップらしい店舗での活動を開始。ネックとなっていたコンピュータのマッピングはロムライターやトレーサーをはじめ、解析ソフト一式をテクトムで手に入れて取り組む。「必要な道具があれば誰でもできる」という高校時代からの考えをコンピュータに関しても貫いていった。

「R32はエンジン内部とターボ本体は手を付けずに、インタークーラーや吸排気系、それにクラッチに手を入れた、ロムチューンのブーストアップ仕様のオーダーが殺到しました。あえて1.1kg/cm2でブーストが垂れるようにセッティングします。それで400psちょっと。必要にして十分なパワーです。欲張って1.3kg/cm2に上げると途端にセラミックのタービンブレードが割れてエンジンブローが勃発。うちは速さよりもトラブルを起こさないことを最優先にしています」

デモカーとして購入したR32は最終的には2.7Lまで排気量を上げてTD06-20G 8cm2のツインターボ仕様に仕立てた。ブースト1.7kg/cm2で700psぐらいの実力だ。

苦労したのはオイルポンプで、高回転を多用するとギアが割れてしまう。まさに致命的なトラブルだ。1年ぐらい対策を思案して巡り合ったのがATIのダンパープーリー。クランクプーリーをこれに換えることで振動が吸収されてオイルポンプが壊れなくなる。いまだにお守りのように使っているパーツだ。

点火時期の確認にも手を焼いた。理論上は最適なタイミングで点火させているが、実際にそれが正解かどうかはわからない。自分で納得できないと精度の高いセッティングは無理だ。燃料は空燃比計で把握できる。しかし点火はそうはいかない。

「エンジンをバラしてコンロッドのメタルの状態で判断していました。点火がズレて異常な力が加わったら表面に変化が表れますから。手間だったけれど、これで点火の正解が見えてきました。パワーアップとトラブル回避に大いに役立ったと思います」

登場間もないR33にノウハウを注ぎ込んでいく

R33は早々に新車で購入。大パワーがもてはやされて、チューニングが白熱していった過激な時代だ。森田代表はR32で苦労して身に付けたノウハウを余すことなく注ぎ込んでゼロヨン仕様を製作した。

HKSの87φピストンにキャリロのH断面コンロッドを使って2.7Lに排気量をアップ。カムはIN280度でEX290度のHKS製を使い、燃焼室やポートも抜かりなく手を入れる。ターボはGT3037Sツインで、エアフロをZ32用に換えてインジェクターは720ccにサイズアップ。それ以外にも純正の444ccインジェクター6本をAICでコントロールするツインインジェクターだ。こうすればメインコンピュータをイジらなくても燃料の微調整が行える。

燃料ポンプはボッシュ製の2機掛けでマフラーはオリジナルの100φチタン。インタークーラーもオリジナルだ。足はアペックスのN1ダンパーを加工してセットし、Hパターンのトラスト6速ドグミッションも装着した。

「この仕様で1000psオーバーの実力です。私がドライブしてゼロヨンではずいぶん勝たせてもらいました。コンスタントに9秒3が出て、そして壊れない。それが強さの秘密です。調子が良ければ9秒1がマークできますが、毎回は無理。コンマ3の余裕を持って挑むと精神的にもとっても楽に戦えます」

R32時代では試行錯誤を繰り返し、GT-Rに対するさまざまなノウハウを身に付けた。それをR33に注ぎ込み昇華させる。ゼロヨンが大流行だったことも追い風になり、思う存分パワーを引き出すことに専念できた。

「いいタイミングでR33に携われました。高校時代からずっと自己流でチューニングに取り組んできて『分解した手順を覚えておいて組み付ける』という考えでやってきました。ショップを始めても思いは一緒。その集大成がR33だったと実感しています。1000psオーバーに取り組めたのも、あの時代ならではの風潮で、最近はそれほどパワーは求めなくなった。それでも限界を極めたことで得たことはとてつもなく多い。いい時代を共に歩んだR33に運命さえも感じます」

現在の主流は500ps級のGT2860Rツインターボ仕様か、700ps級のT78シングルターボ仕様であり、意外にも高回転よりアイドリングから3000rpmの常用域の仕立て方だったりする。そんなメニューにもR33の技術がフィードバックされている。

(この記事は2021年12月1日発売のGT-R Magazine 162号に掲載した記事を元に再編集しています)

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