タイヤも黒くて丸いだけではダメな時代へ
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「タイヤのデザイン」だ。トーヨータイヤ・プロクセスのブランドアンバサダーを務め、ドイツ・ニュルブルクリンクで行われるレースにも参戦中。そのトーヨータイヤの姉妹ブランドである、オフロード向けタイヤ「オープンカントリーM/T」にひと目惚れしているという。なぜ惹き付けられるのか? その理由について語る。
「オプカン」を履きたいからジムニーシエラに乗りたい
ある日突然ジムニーシエラが欲しくなり、近隣の販売店に飛び込んだ。じつは、トーヨータイヤの「オープンカントリーM/T」を履きたくなったからである。
オープンカントリーはオフロードモデル用のマッチョなタイヤのことで、「オプカン」と呼ばれその世界では有名なのだ。
ジムニーはもちろんのこと、ランクルやバジェロ、あるいはランドクルーザーやラングラーのような、ボルネオのジャングルを踏破するような、アドベンチャー系4WD御用達系として愛されている。
にわかにオプカンを履きたくなったのはそのデザインだ。オプカンシリーズの中でW/Tはとくにアグレッシブな面構えであり、つまり、トレッドパーンが攻撃的であり、いかにも泥濘地でグリップしそうなのだ。サイドウォールにも力強い凹凸があり、タフさを醸し出す。クルマはドライバーのライフスタイルを想像させる工業品だが、タイヤがそれをさらに強調してくれるのである。
といっても特別にキャンプが趣味というわけではない。年に数回のスキー合宿がせいぜいだ。まして道なき道を突き進むようなアドベンチャー系は好きではないから縁が薄い。そんな軟弱なジムニーシエラ乗りのためには、静かで快適なオンロード系のオプカンもラインナップしている。実際に売れているという。
あの面構えに惚れたのが理由で、スズキ販売店に飛び込んだのだ。軟弱なエセオフローダーと罵られるのは覚悟である。
近年は各社趣向を凝らしたタイヤをラインナップする
タイヤがデザイン性を備えるのは最近の風潮だ。とくにトレッドパターンはタイヤの顔であり、各社が溝の配列や形状にこだわってきた。
顔に例えるならば、サイドウォールのデザインにも試行を凝らしている。ミシュランパイロットスポーツなどは、ロゴが惹き立つよう光の反射を考慮した凹凸を巡らしている。
タイヤは古今東西「黒くて丸い」から脱することができずにきている。ポリマーを結合するためにカーボンが欠かせず、カーボンが黒いことから黒から脱しないのだ。
タイヤが四角ければ、走りに支障をきたすであろう。あとから白や黄色に着色することも、性能には拘らない自転車などでは例外的に存在するものの、クルマに至っては「黒くて丸い」から脱し得ないのだ。
だからこそ、残されたデザイン性はトレッド面とサイドウォールなのである。
といっても、御多分にもれずジムニーシエラも半導体不足の影響を受け、納車まで最低でも1年は待たなければならないという。
それまでオプカンは、事務所のオブジェと化す。丸いガラスでものせて、テーブルにでもしようかな。