箱根で体感! アバルトの激辛コンペティツィオーネ
「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。
今回は、当コーナー初となる超絶辛口のレーシングカーが登場する。1960~70年代のヨーロッパで絶大な影響力を有していた「欧州ツーリングカー選手権(ETC)」を席巻した名作「アバルト1000TCR」こと「フィアット・アバルト1000ベルリーナ・コルサ」である。
異常進化を遂げたアバルトのイル・モストロ(怪物)とは?
名作ぞろいのアバルト製レーシングカーの中でも、伝説的な怪物として誰もが認める「フィアット・アバルト1000TCR」。でも、この名はあくまで通称に過ぎない。それでは、誕生当時のアバルト社が名づけた本名はといえば「フィアット・アバルト1000ベルリーナ・コルサ・テスタ・ラディアーレ」という恐ろしく長いもの。そして、このマシンの成り立ちを端的に示したものだった。
イタリアの国民的大衆車フィアット600をベースとし、「チューニングカー」という分野の起源ともなった一連のフィアット・アバルトたちは、まず1956年にチューニングキット「750デリヴァツィオーネ」として販売。その後、イタリアのモータースポーツが都市間公道レースからサーキットレースやヒルクライムなどに移行したことから、より戦闘力の高いモデルが求められることになる。
そんな要請に応えるかたちで、1961年にデビューしたのが「フィアット・アバルト850TC」。次いで翌62年には、専用のAHシリンダーブロックによる982ccエンジンを搭載した「1000ベルリーナ・コルサ」も登場し、さっそく実戦投入された。
この時代のアバルト・ワークスチームや有力なプライベートチームにデリバリーされた「850TCコルサ」/「1000ベルリーナ・コルサ」たちは、当時ヨーロッパで人気を集めていたツーリングカーレースの850cc以下クラス/1000cc以下クラスで圧倒的な強さを見せ、毎シーズンのごとく製造者タイトルを獲得してゆく。
そして年々アップデートを加えられ、1960年代末にはその姿を大きく変容させてゆくことになる。それまでのアバルト製「モノアルベロ(OHV)」エンジンが、カウンターフロー式ヘッドを持っていたのに対して、同じOHV方式ながらより燃焼効率の高い半球形燃焼室を持つクロスフローヘッド「テスタ・ラディアーレ」が、まずは1968~69年シーズンのみ暫定的にETCタイトルの対象となったグループ5仕様の1000ベルリーナ・コルサから搭載された。
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また、1969年以降に製作された車両では、フロントのサスペンションをフィアット600以来の横置きリーフスプリングから「ペンドラーリ」と呼ばれるマグネシウム製クロスメンバーを加えることで、ダブルウィッシュボーン+コイルに変更を受ける。
そして1970年シーズンから施行の新FIAレギュレーションで、グループ2ツーリングカーに大幅な改造範囲の拡大が認められたのに応じて、1000ベルリーナにはテスタ・ラディアーレが正式にホモロゲート。同時にウェーバー40DCOE気化器やギア駆動カムシャフトを採用した上に、リアサスもフィアット600の原型とは似ても似つかぬ、鋼管製菱形アームを持つものへと換装された。
さらに、プレクシグラス製のサイド/リアウインドウに拡幅されたフロントフェンダー、そしてFRP製のリア・オーバーフェンダーなども、一挙にFIAホモロゲートを取得。もともとのフィアット600の原型は辛うじて窺わせながらも、1970年代半ばのFIAグループ5シルエットフォーミュラを連想させるような「イル・モストロ(怪物)」へと異常進化を遂げることになったのだ。
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