1.6リッターのベビーギャング、ルポGTI
そのルポの走りだが、これも他のVW車、たとえば「ゴルフ」などとはやや趣を異にしたものだった。言葉で表現すると「VW車ながらラテン系っぽい乗り味」で、身軽だったせいもありコーナリングはスウッ! とイン側の足を伸ばした姿勢になり、軽やかな駆け抜け具合だった。
さらに走りをより極めたモデルとしてGTIが登場したのも注目だった。「山椒は小粒でピリリと辛い」を地で行くようなこの「ルポGTI」は、ベース車に対し10kgしか重くないボディに125ps/15.5kgmを発揮する1.6Lの4気筒DOHC(ベース車は1.4L)を搭載。6速MTを駆使しながら、やや締め上げられたスポーツサスペンション(ブレーキは4輪ディスクブレーキが奢られていた)ことと相まって、ワインディング路をギュンギュンと走り回れたベビーギャング的なスポーツモデルだったのである。
ボンネット、ドアパネル、フェンダーはアルミ製、テールパイプはセンター2本出し、ハニカムグリルに「I」の1文字だけ赤いGTIエンブレム、そしてシートベルトも目にも鮮やかな赤……と、気分を盛り上げるディテールにも事欠かなかった。
筆者は自宅から数100mのコンビニへ出かけるにもBGMは欠かせないが、当時、このルポGTIの試乗で編集の人に呼び出されたときだけは、標準装備のMDデッキでプレイするマライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンを入れた自前のディスクは持って出なかった。それくらい、ドライバーを走らせる気満々にさせてくれるクルマだった。
日本未上陸ながら燃費・軽量化スペシャルの「3L TDI」もあった
対照的にルポといえば、2.99L/100kmの驚異的な低燃費を実現した3リッター・ルポ=「ルポ3L TDI」が忘れられない。このクルマは3気筒の1191cc直噴ディーゼルターボを搭載。車両重量830kgの超軽量ボディとCd値0.29と空力も極めたのが特徴だ。とくに軽量化は、大きなところでボディパネルほかサブフレーム、クロスメンバーをはじめ、ブレーキドラム、エンジンブロックなどトータルでおよそ150kgもの軽量化を実現している。
たとえばテールゲートは外側がアルミ、内側をマグネシウムとし、ゲートを支えるストラットもマグネシウム製で、これはスケールメリットを図るために他のルポにも展開されていた。この「3リッター・ルポ」は2000年に日本市場にも紹介されながらも結局導入には至らなかったものの、なりは小さくとも、当時のVWの技術の粋を集めたショーケースのようなクルマだった。