最小のフォルクスワーゲンとして1998年にデビュー
現在フォルクスワーゲンのコンパクトカーのラインナップは主力の「ゴルフ」と、その弟分の「ポロ」となっていますが、かつてはポロよりさらに小さな「ルポ」が存在していました。1998年~2005年の1世代だけで消えてしまったルポを、当時のカタログとともに振り返ります。
なかなか定着しなかった「ポロより小さなVW」
VWのコンパクトカーというと「ポロ」がお馴染みだろう。そのポロは、ヤナセ時代に2世代目が少量台数だけ日本市場に導入されたのが最初だが、じつはその前、本国では初代ゴルフ誕生の翌年の1975年に登場した初代ポロが存在した。
話が前後するが日本市場でポロが広く認知されるようになったのは1996年に当時のVGJ(フォルクスワーゲン グループ ジャパン)により3世代目(6N型)が本格導入を開始されて以降のことで、VW好きだった筆者などは、「ゴルフ」以上にコンパクトなボディにVWらしさをより凝縮させたポロに日本でも乗れるようになったことをとても嬉しく思った。
一瞬ではあったが、欧州仕様の一体型バンパーが日本仕様でも付いてくることを知ったときなど、「おお、これでタイヤを13インチにダウンさせ、“D”のインターナショナルステッカーをリアのナンバープレートの横に貼って乗ったらほぼ本国仕様じゃないか!」と狂喜乱舞したものである(多少、オーバーな表現だが)。
ところでそのポロは現在に至るまでゴルフと並ぶVWの中核車種として続いているのはご承知のとおり。その一方で、おそらくはビジネス上の大人の事情でコンパクト系はカタログに載せ続けることが難しいのだろう、消えていった車種があった。
時空を逆回しにしていくと「up!」はそんな1台で、2012年の日本のお披露目の場にはデザインを手がけたワルター・デ・シルバ氏まで来日(会場で筆者はアルファ ロメオの156、166×2台のオーナーという触れ込みで紹介され、挨拶をし、サインをいただいた)、GTIの設定やEVの「e-up!」の導入まで検討されたものの、2020年には終了となった。
シンプルで使いやすい実用コンパクトだった
そしてもう1台、up!のいわば前任「車」だった「ルポ」があった。もともとルポは1997年に同じVWグループのセアトから兄弟車の「アローザ」が登場、その翌年になりVWから登場したモデルだった。実態としては前述した3代目ポロのホイールベースを90mm短くしたもので、併せて記せば全長は3525mm(ポロ-190mm)、全幅1640mm(同・-20mm)と、「狼」の意味をもつ車名に反してじつにコンパクトなボディサイズだった。ちなみに全高は1475mmあり、これはポロよりも35mm高かった。
スタイルは丸型ヘッドライトをもつフレンドリーな雰囲気。インテリアもインパネ表面をIDシボ(ツブツブの幾何学パターンのシボ)を用いたり、ドアやピラー部にボディ色を露出させたり……とシンプル志向のもの。さらに実用車として嬉しかったのは2ドア車ながら、クーペのようにドアの前後長が長過ぎないことで、これは狭い場所での乗り降りのしやすさに貢献した。
一方で定員を5名としていたため、ヨーロッパ車らしく後席(3名)にもしっかりと人数分のヘッドレストを備えていた点はサスガと思わされた。ただし試乗中、インナーミラー越しに3つのヘッドレストが(穴空きのデザインだったとはいえ)ギッシリと並ぶのが見え、見た目も気分的にもやや暑苦しく思え、1名乗車の試乗だったため中央の1つを外して後方の視界を確保しつつ運転した覚えがある。
1.6リッターのベビーギャング、ルポGTI
そのルポの走りだが、これも他のVW車、たとえば「ゴルフ」などとはやや趣を異にしたものだった。言葉で表現すると「VW車ながらラテン系っぽい乗り味」で、身軽だったせいもありコーナリングはスウッ! とイン側の足を伸ばした姿勢になり、軽やかな駆け抜け具合だった。
さらに走りをより極めたモデルとしてGTIが登場したのも注目だった。「山椒は小粒でピリリと辛い」を地で行くようなこの「ルポGTI」は、ベース車に対し10kgしか重くないボディに125ps/15.5kgmを発揮する1.6Lの4気筒DOHC(ベース車は1.4L)を搭載。6速MTを駆使しながら、やや締め上げられたスポーツサスペンション(ブレーキは4輪ディスクブレーキが奢られていた)ことと相まって、ワインディング路をギュンギュンと走り回れたベビーギャング的なスポーツモデルだったのである。
ボンネット、ドアパネル、フェンダーはアルミ製、テールパイプはセンター2本出し、ハニカムグリルに「I」の1文字だけ赤いGTIエンブレム、そしてシートベルトも目にも鮮やかな赤……と、気分を盛り上げるディテールにも事欠かなかった。
筆者は自宅から数100mのコンビニへ出かけるにもBGMは欠かせないが、当時、このルポGTIの試乗で編集の人に呼び出されたときだけは、標準装備のMDデッキでプレイするマライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンを入れた自前のディスクは持って出なかった。それくらい、ドライバーを走らせる気満々にさせてくれるクルマだった。
日本未上陸ながら燃費・軽量化スペシャルの「3L TDI」もあった
対照的にルポといえば、2.99L/100kmの驚異的な低燃費を実現した3リッター・ルポ=「ルポ3L TDI」が忘れられない。このクルマは3気筒の1191cc直噴ディーゼルターボを搭載。車両重量830kgの超軽量ボディとCd値0.29と空力も極めたのが特徴だ。とくに軽量化は、大きなところでボディパネルほかサブフレーム、クロスメンバーをはじめ、ブレーキドラム、エンジンブロックなどトータルでおよそ150kgもの軽量化を実現している。
たとえばテールゲートは外側がアルミ、内側をマグネシウムとし、ゲートを支えるストラットもマグネシウム製で、これはスケールメリットを図るために他のルポにも展開されていた。この「3リッター・ルポ」は2000年に日本市場にも紹介されながらも結局導入には至らなかったものの、なりは小さくとも、当時のVWの技術の粋を集めたショーケースのようなクルマだった。