アルファとザガートがコラボしたコンペティツィオーネ
2023年4月9日に埼玉県行田市にある古代蓮の里を会場として開催されたアルファ ロメオのミーティング「カフェ・ド・ジュリア2023」。カロッツェリア・ザガートが手がけた鋼管スペースフレームの伝説的なコンペティツィオーネ、アルファ ロメオ「ジュリアTZ」(Tubolare Zagato、通称TZ1)は生産台数わずか112台の希少車だが、それを8カ月ほど前に入手したというオーナーが来場していたので紹介しよう。
ドイツ車党からイタ車に転進しアルファ SZ、次いでTZを購入
川瀬友和さんは現在66歳。年齢を感じさせないカッコよさ全開で珠玉のクラシックスポーツカーをさらりと乗りこなしている。腕時計やモーターサイクル方面にも造詣が深く、2輪は、モトム、アグスタ ツーリスモ、ベスパP125、BMW R75などを所有。自宅の近くに設けたガレージにて、その道に精通している好事家が見たらムムッと思うようなクラシックスポーツカーとモーターサイクルを保管している。
「いま、愛車の排気量が600、750、1000、1300、1600といった具合に全部違っており、面白いですね」と話してくれた川瀬さんが現在愛用している4輪は、1957年式のアバルト「750コルサ」、1960年式アルファ ロメオ「ジュリエッタSZ(Sprint Zagato)」(58番目に造られた車両)、1964年式のアルファ ロメオ「TZ1」、1965年式の「ASA 1000GT」(設計と製作にフェラーリが携わっていたので、同時代の250や275のパーツが一部流用されている)、同じく1965年式のホンダ「S600クーペ」(30年間納屋に眠っていたのでオリジナル塗装をキープ。米軍向けに5台だけデリバリーされたうちの1台なので左ハンドル仕様)という顔ぶれだ。
いまでこそ熱心なイタリア車フリークとなっている川瀬さんだが、以前はドイツ車ばかりに乗っていたのだという。友人が乗っていたクイーンメリーと呼ばれるフェラーリ365GT 2+2の12気筒エンジンの官能的なサウンドと走行フィーリングがあまりにもドラマチックだったことで、自動車趣味の方向性が一気にイタリア車へとシフトしたのだそうだ。
「公道を走れるアルファ ロメオの頂点は、理想的なレーシングスポーツカーでありながらデイリードライブが可能なTZ1だと思っていたのですが、これなら買っても大丈夫というクルマがなかなか無くて。本物を探すのが大変だったんですよ。ずっと気にしていたものの、あっという間に高価になり、購入するのが難しくなってしまいました。ショップとのつながりだけでなく、個人オーナーとのつながりでもTZ1を探していたのですが、あるとき先にSZが出てきたんです。もう、これしかない、と思って買ってしまいました」
聞けばそのSZは、ザガート創業者ウーゴ・ザガートの息子であるエリオ・ザガートが所有していたことがあるというクルマで、レストア中にザガートの経営が傾いてきて手放されたものらしい。ともあれ、自身初のアルファ ロメオとして購入したSZの軽快な走りに感動し、川瀬さんはますます情熱の国イタリアのクラシックスポーツカーが好きになってしまったのだった。
TZは公道でもサーキットでも走りやすい
そしてようやく手に入れた念願のTZ1だが、元はといえばフェラーリをはじめとするF1チームで活躍したスイス人レーシングドライバーのクレイ・レガツォーニがファーストオーナーだった個体とのこと。SZを買った後に前オーナーと話がついたものの、コロナ禍もあって4年も待つことになったそうだ。
「ジュリアが新車だった時代の技術責任者だったオラッチオ・ザッタが直々にTZ1を手がけたといわれています。当時のアルファ ロメオは鋼管フレームを持っていなかったので、57kgしかないTZ1のチューブラーフレームはアンブロジーニという会社が造ったものです。ここはセスナやヘリコプター用のフレームを造っていたところで、クルマ用はTZ1のモノが初めてだったようです。後に高い評価を得て、F1のフレームを造るまでに成長しました。スゴイ話ですね。
1960年代のアルファ ロメオはさまざまなモデルを出し、デリバリー数が増えていたので、生産が追いつかなくなり、TZ1はアルファ ロメオのレース部門であるアウトデルタが組み、最終調整をアルファ ロメオが担当して出荷していました。ということもあり、TZ1の車両重量は660kgで、それでいて100Lも入るタンクを積んでいます」
と語ってくれた川瀬さん。ちなみに、オリジナルのエンジンを降ろして保管しており、いまはGTA用のツインプラグ仕様を積んでいるそうだ。
SZはアクセルが軽く、1300ccエンジンの吹け上がりもいいので驚くほど軽快に走ることができ、いっぽう1600ccエンジンを積んでいるTZ1はトルクがあり、公道でもサーキットでも乗りやすい、とも話してくれた川瀬さんは日本屈指の自動車趣味人といえる。これからも珠玉のクラシックスポーツカーを増やし、後世に遺してくれるだろう。