レンジローバーの“格下”ではない
先代レンジローバースポーツは、1000〜2000万円級SUVのなかで筆頭格のオススメモデルだった。とてもよくできた高級SUVである本家レンジローバーとほとんど同じ成り立ちで、匹敵する乗り味があり、スタイリッシュでパーソナル感がより強い。そのうえ本家より比較的買い求めやすいプライスタグをぶら下げているとなれば、他人に勧めないという理由がなかった。でっかく威張ったカタチのSUVが好きとおっしゃる向き以外には、「買うなら絶対レンスポですよ〜」とよく言ったものだった。
スタイリッシュな存在感を醸しだすレンジローバースポーツ
2021年末にデビューした最新の5代目レンジローバーもまた大いなる正当進化を果たして、ラグジュアリーSUV界におけるトップモデルの地位を守り抜いた。それゆえ、これをベースとしたレンスポにもまた期待は自ずと高まっていたというわけだった。
第3世代となったレンジローバースポーツ。本家からの転換手法的には先代とほとんど変わっていない。ボディサイズはほぼ同等(ホイールベースは同じだ)ながら、車高を抑えてスタイリッシュな存在感を醸しだす。一瞬どちらなのか悩んでしまうが、リアに向かって下がっていくルーフラインとリアエンド(ランプデザイン)で見分けがつくというあたりも好ましい。
要するに、レンスポは決してレンジの“格下”には見えない。あくまでもレンジローバーなのだ。だからこそ実は安いというところに人気の秘密があったわけだが、現行モデルでも価格の差別化は明らかだった。グレードの仕様が異なるため単純には比較できないものの、車両本体価格のスタートライン比較でおよそ600万円も違っている。同じエンジン、ほぼ同じ装備内容で比べてもまだ300万円以上の開きはあるから、レンスポのお買い得感は十分に保たれたと思う。
ただし、それはあくまでもレンジローバーとの比較において相対的な感覚、だ。もはや1000万円以下で買えるレンスポは無くなった(最廉価グレードのSで1000万円ちょい)。以前に比べると絶対的な安さ感は減っている。レンジローバーそのものの価格設定も大幅に上がっていたので、価格差があると言っても素直に喜べないというのがホンネ。レンジローバーらしい装備内容のグレード(ダイナミックSEや同HSE)を選ぶと、レンスポでも本体1300万円前後になってしまう。もちろん昨今の社会情勢や為替を考えると止むを得ない設定だろうし、それでも人気を得ることは間違いない。
特有のネガティブさがまったくないディーゼルエンジン
日本市場向けは、とりあえず直6ディーゼル1本に絞られた。他にガソリン6発をローンチエディションでごく少量用意したのみ。これはレンジローバーでも事実上同じような事態になっている。ディーゼルしか日本にやってこないのだ。
もっとも実際に乗ってみれば、レンジローバーも含めて、直6ディーゼルのD300で不満はない。もはや音や振動といったディーゼル特有のネガティブは全くなく、そのエンジンフィールもまた軽油を炊いているとは思えないほどに滑らかだったから、ガソリンスタンドではグリーンのノズルを挿していいのか何度も確かめたほど。これで燃費はガソリンの3割増しで良く、リッターあたりのコストも低いのだ。ディーゼルエンジンへの風当たりが強くなっているけれど、欧州メーカーの6発ディーゼルは最高な内燃機関の1つだろう。
さて、肝心のレンスポそのものの乗り味はどうだったか。以前よりはレンジローバーとの明確な差は無くなったと思う。レンジローバーより近づいたとでも言おうか。もちろんレンジローバーよりも街中の少々荒れた舗装路では硬派な乗り心地を見せるが、速度域が上がっていくにつれてそれも見事に収まって、“王者の風格”というべきドライブフィールを提供する。郊外路をクルージングしている時の気分はまさにレンジローバーだ。
まずはレンスポの魅力を十分に引き継いだと言える3代目。パワートレインや装備面を含めた今後の、そして早々のさらなる充実にも期待したい。