今や日本のタクシーはJPN TAXIが席捲しているが……
タクシー専用車というと、思い浮かぶのはトヨタ「JPN TAXI(ジャパン・タクシー)」だろう(日産「NV200タクシー」は2021年に生産を終了している)。イギリスのロンドンタクシー、アメリカのイエローキャブなどと並ぶタクシーの代名詞的な存在で、今や日本の津々浦々の路上で見かけるようになった。国が定めたUD(ユニバーサルデザイン)の認定制度に適合させたスペックをもち、車椅子での乗降、乗車なども可能にしたクルマで、実際に乗ってみると乗り心地もちゃんとしているし、さすがに後席スペースはゆったりとしており、「ふーん」と思わせられる。
90年代に日産とトヨタがタクシー専用車を相次いで投入
ところでJPN TAXI以前にも、古くからタクシー仕様車はもちろんあった。代表的なのはトヨタ「クラウン」、日産「セドリック」などで、小型車では「マークIIセダン」、「ブルーバード」といった車種。一般ユーザー向けのクルマに較べるといくぶんか質素な仕様で仕立てられていた。量販車種で効率的にタクシー仕様車「も」用意するのがそれまでのやり方だった。
一方で始めからタクシー専用車として開発されたのが、1993年に登場した日産「クルー」と、1995年に登場したトヨタ「コンフォート」および「クラウンコンフォート」だった。
後席左ドアが長い左右非対称だった日産クルー
まず日産クルーから見ていくと、このクルマはタクシーの中型車(全長4.6m)の規定に合わせて作られたクルマで、ベースにはクルーの登場時には1世代前となっていたY31型セドリック・セダンが用いられていた。ただし外観デザインはまるっきりの専用であるだけでなく、パッケージングにもこだわりが。
見るからに「箱型セダン」のスタイルだったが、全高を1460mmとY31セダンより60mmも高い設定としたうえでA/Cピラーを立ててロングルーフ化。サイドウインドウも起こして横方向にルーフがワイド化されていた。
さらに画期的だったのは、乗客が乗り降りする後席左側のドアが、右側よりも50mmも前後に長い、いわば左右非対称になっていたのである。2665mmのホイールベースで最小回転半径が4.8mの小ささだったのも用途に見合った設計だったが、今、カタログで写真を見返しても営業車らしくフロントグリルもプレーンというよりスノッブな外観ながら、じつはそんな風に本気のタクシー仕様車だったところに「ほぉ」と思わせられる。
当然ながら室内も専用化が図られ、インパネは料金メーター、無線機など専用装備のインストールが前提のデザイン。ハザードランプのスイッチはウインカーレバーの先端に組み込まれ、室内灯とは別に明るい「日報灯」も備えた。ペン立て、領収書発行機(プリンター)や、「Sバネフィッシュマウス構造」とアシストスプリングを用いた当時のインフィニティQ45譲りのドライバーズシートがじつは採用されていたり、始業点検を想定してエンジンフードにはガスダンパーを備えていたりと、まさにプロ仕様のスペック満載だったことがカタログからもわかる。それとエンブレム類がステッカー(ラベル)だったのも、コストのためと思いきや、洗車の容易性を考えてのことだったとも。