アメリカを気ままに放浪3カ月:75日目~78日目
これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。LAから北上しワシントン州のオリンピック国立公園を満喫した後は、ふたたび南下しカリフォルニア州へ。友人夫妻とキャンプを楽しむため、山あいの町ローンパインを目指します。
シエラネバダとデスバレーに挟まれた乾いた道を走る
ビショップからローンパインまでのハイウェイ395は凄まじい景色だった。右手にはシエラネバダの3000m超えの岩山がそびえる。同じ山脈でも西側はヨセミテ、セコイアに代表される緑ゆたかな森だが、東側は乾燥した恐ろしい岩肌だ。ここから東へさらに100マイル(約160km)いくとデスバレーに至る。
風もものすごい。殴りつけるような強風が岩肌を駆け降りて車両を叩く。熱く、乾燥した灼熱の風。横風になぶられハンドルが取られる。しかし、「ドル」は頑張り、ぼくたちは約束の12時に30分遅れでビジターセンターに到達した。
7月13日 コットンウッド・トレイルヘッド
AKIRA隊長夫妻(LAで旅行代理店を営む)とは2カ月半ぶりの再会である。旅の話をしながらのランチは楽しく、ぼくはいつも以上に饒舌になっていた。その日の午後は隊長の「シビック」で標高1万フィート(3000m)のトレイルヘッドまで行き、そこで1泊。翌日、早朝からバックパックを担いでハイキングに出る予定だ。「ドル」はローンパインの路地裏でお留守番ということになった。
コットンウッドというトレイルヘッドは、4年前、隊長とふたりでジョン・ミューア・トレイルに挑んだ思い出の地だ。3週間で約350kmを踏破する計画だったが、3分の2の地点までしか辿り着かなかった。翌年、奥さんのMAYUMIさんも参加して「やり残した仕事」を完結した。ぼくの人生のなかでも、最も思い出に残る旅のひとつだった。
今回のハイクは、ぼくと「ドル」の3カ月の挑戦にエールを送る意味で、隊長がプレゼントしてくれたものだ。粋な計らいに感謝の気持ちが沸いてきた。
無理せず湖畔でキャンプして軽めのハイキング
ところが、その隊長が不調だ。歩き始めてすぐに遅れ始め、1マイル(約1.6km)もいかないうちに息が上がってしまった。考えてみれば、最初の挑戦のときは、日米に分かれながら半年にわたって励まし合ってトレーニングを積んだものだった。
今回は「まったく鍛えていなかった」と本人が認めるように、ぶっつけ本番。20kg近いバックパックを担いで、山道を登るのは過酷すぎた。結局、当初の計画はあきらめ、最初の湖にテントを張って、軽い荷物でハイキングを楽しむことにした。
ぼくたちが入ったコットンウッド一帯は、ゴールデントラウトというニジマスの原種が棲むことで知られる。すれ違うハイカーたちの8割は釣り竿を持っている。それほどに価値のある魚なのだ。ぼくにとっても、ここまで隠してきたアングラー魂を爆発させる格好の舞台というわけだ。
しかし、カリフォルニアの渇水はここでも深刻だ。4年前に輝いていた水面は明らかに後退していた。これではいい釣りを期待しても無理だろう。湖の様子を見るうちに、気持ちはあきらめモードに変化していった。
きれいなゴールデントラウトは大自然からのご褒美?
午後3時、ぼくたちの湖に釣り人がやってきた。盛んにルアーを投げてはいるがヒットの様子はない。釣れる可能性はきわめて低いはずだが、意外と粘っている。戻ってきた彼に話を聞くと、いいサイズの魚が見えているのだという。
本当かな、と疑いながらポイントにいくと、たしかに背びれを出してシャロー(浅い場所)を泳いでいる魚が何尾も見える。しかも、いいサイズだ。もしかしたら、チャンスがあるかもしれない。さっそく夕マヅメにチャレンジするが、ヒットはない。魚はいても活性が低いのだろう。
その晩は3年ぶりに3人で山の食事をし、コヨーテの遠吠えを聞きながら3000mオーバーのキリッと冷たい夜を過ごした。やはり、シエラネバダのバックカントリーは特別だ。ここに戻って来ることができた幸運を感謝した。
ぼくの竿に幸運が訪れたのは、翌日の朝マヅメだった。早起きしてコーヒーを飲みながら水面を注視していると、しばらくしてライズが始まった。さっそくロッドを持って湖畔に走り、キャストを開始。すると、数分後、確かなアタリがロッドをしならせたのだった。
「釣れた! 隊長、カメラ、カメラ!」AKIRA隊長を大声で呼びながら、慎重に魚をランディングした。立派な魚体のきれいなゴールデントラウトだった。世界中でここでしか釣れない、金ピカの魚。アングラー憧れの一尾だ。まさにここまで頑張ったご褒美をもらった感じだった。
7月15~16日 ローンパイン近郊のキャンプ場
山から降りるとAKIRA隊長夫妻はロサンゼルスに向かい、ぼくは町の近くのキャンプ場にチェックイン。プロパンガスを補充し、コインランドリーで洗濯をし、カフェでビールを飲み、溜まっていた仕事に集中した。
日中は焦げるほどの強烈な暑さだが、夜から朝方にかけては快適な涼しさに一変する。ぼくはそのキャンプ場に2泊し、3日めの早朝にロサンゼルスを目指すことにした。なんとなくローンパインの町が好きになっていた。
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