スズキ ワゴンRを追いかけて登場
初代ダイハツ「ムーヴ」の登場は1995年8月だったから今年で実に28年。今なら野球に疎い人でも(じつは筆者もその1人)あのメジャーリーガー・大谷翔平と同い年かぁ……と思いを巡らせるところだろうが、いずれにしても数ある軽自動車の中でも息の長いメイクのひとつに数えられる。直近では派生車のキャンバスを加え、販売台数でも常に上位に食い込む安定した人気ぶりを示しているのはご承知のとおりだ。
銭湯の天井のような頭上の広さ
そんなムーヴは、もともとは1993年9月にスズキから彗星のごとく登場したワゴンRの対抗車として誕生した。登場時のコピーは、ワゴンRが「クルマより楽しいクルマ」だったのに対して、ムーヴのほうは「人も、車も、ムーヴしよう」とカタログの冒頭で謳っている。ワゴンRを追いかけてダイハツがムーヴを登場させたことで、軽自動車市場には“ハイトワゴン”なる新ジャンルが生まれた。
ところでムーヴだが、短いノーズと背の高いフォルムから、一見するとワゴンRと同じような成り立ちのようにも見えた。ところが両車は実際には似て非なるクルマだった。どちらもベース車(ワゴンRはセルボ、ムーヴはミラ)があったものの、ワゴンRはフロアを二重にし、乗員の着座位置も高めるなど、完全に専用のパッケージングが組み立られていた。それに対してムーヴは、全高は1620〜1705mmとワゴンR(1640〜1695mm)とクルマの全高こそ同等ながら、実際の着座位置はワゴンRより低かったのである。
当時の両車の広報資料を当たってみても、ワゴンRの前席座面は路面から625mm(4WDは630mm)と数値が示されているが、ムーヴはベースのミラに対しての座面の差が80mmあるとの説明のみ。ただしドア開口について上側がミラより200mm高いとして、“かがむことなく自然な姿勢で乗り込めるとともに、着座姿勢のままで足が地面に接地しやすく、楽に降りることができます”と書かれている。
要はムーヴは比較的低めの着座位置で頭上空間はタップリしていた……といった風。そんな事象のことを筆者は当時のどこかのレポートで“銭湯の天井のよう”などと書いた気がする。なおインパネは当時のミラのそれをほぼそのまま使っていた。