前後席を繋げたフルフラット状態も可能
一方で室内の使い勝手では、ムーヴには工夫があった。とくに後席は左右独立でリクライニングがさせられるだけでなく、スライド機構(ストロークは150mm、4WD車は105mm)も持たせてあった。折り畳みはシートバックを前倒ししたあと、さらにクッションごと前方にハネ上げるツーモーション機構とし、こうするとラゲッジルームと低くフラットな床面が現れ、最大限の積載性も発揮できる。
さらに前席225mmのスライド機構と併せて、当時の小型車のミニバンのような、前後席を繋げたフルフラット状態も可能というのがポイントだった。ちなみにワゴンRの後席は左右独立で折り畳めるのは同じだったが、シートバックを前方に倒すと同時にシートクッションが沈み込みながら折り畳める仕組みを採用。ワンアクションのこの操作性も、合理的で扱いやすいものだった。
実用面では、ドアに関してもムーヴは独自性を発揮した。というのも、ワゴンRはデビュー当初はワンツードアと言われた、左側のみ2ドアとした構成(後に左右2ドアも登場した)だったが、ムーヴでは最初から左右2枚ずつの4ドアを採用。カタログでは“どの席の人も平等に大切にしたレイアウト”と謳っている。
またバックドアが“横開き”だったのもムーヴの特徴で、これは5代目まで踏襲された。通常のハネ上げ式に較べ、狭い場所での使い勝手のよさ、軽い力で開け閉めができる扱いやすさなどがこのドアのメリットだった。
イタリアのデザイナーが関わっていた
それとムーヴでは斬新な外観スタイルも特徴のひとつだった。ポイントはAピラーをそのままヘッドライトに繋がるキャラクターラインとし、そこにラップオーバーフードと呼んだクラムシェル型のエンジンフードを組み合わせた点。公式な発表は確かなかったはずだが、このデザインはイタリアの当時のデザイン会社I.DE.Aが関わっていたとのこと。
ダイハツは1960年代のコンパーノのデザインをカロッツェリアのヴィニャーレに依託するなど、イタリアとの関係は古くからあったが、確かに初代ムーヴのスタイリングは、日本の自動車メーカーのハウスデザインとは一味違う趣があった。
なおムーヴでは1998年登場の2代目ではG・ジウジアーロのデザインを採用。当時のカタログには、いすゞ ピアッツァのようにご本人こそ登場していなかったが、おなじみのG・ジウジアーロのサインがさり気なく載っていた。
さらに初代ムーヴでは、当初から全車にDOHCエンジンを搭載。2機種の3気筒エンジンのほかに、トップモデルにはミラにも搭載された4気筒ターボも用意した。カタログ上の扱いでは3気筒エンジンに対しやや控えめながら、64ps/10.2kgmのスペックを発揮したこの4気筒エンジンは、初代ムーヴの“走って楽しい”のコンセプトを支えたパワーユニットだった。