もはや5億円以上は当たり前となった「F50」
業界最大手の一つであるRMサザビーズの北米本社は、2023年で第24回目となる“AMELIA ISLAND”オークションを大々的に開催。総額にして実に7000万ドルを超える売り上げを達成したという。3月4日の競売では、素晴らしいクラシックカーやスーパーカーに対して、日本円にして億越えとなるビッグプライスでハンマーが落とされたようだが、今回はそんな珠玉のクルマたちの中から、ここ数年では5億円以上の取引価格が通例となってしまっているフェラーリ「F50」と、その最新オークション事情についてお話しさせていただこう。
フェラーリ・スペチアーレの「ビッグ5」って?
筆者は寡聞にして存じ上げてなかったが、昨今では「288GTO」と「F40」、「F50」、そして「エンツォ・フェラーリ」と「ラ・フェラーリ」を合わせて「ビッグ5」と呼ぶそうだ。
そして、フェラーリ社創立50周年である1997年までに生産を終える、というスケジュールのもと1995年から生産開始されたF50は、ビッグ5の中でももっともピュアなF1由来モデルとして、今なお高い人気を博している。
1987年にデビューしたF40の成功を受け、マラネッロのエンジニアたちは、間もなく迎えようとしていたフェラーリ50周年を記念して、F40の後継に相応しいスペチアーレが必要であると認識していた。そこで4年の歳月をかけ、フェラーリのレーシングテクノロジーと直結のロードカーを完成させるに至る。
ピニンファリーナのデザイナーたちは、カーボンファイバー+ケブラー+ノーメックスハニカムで成形された曲線的なコーチワークで、1950年代と1960年代にマラネッロで生み出された伝説的なスポーツレーサーを連想させる、自由で流れるようなラインを強調することに成功した。
さらにこのボディには、専用ケースに収納された取り外し可能なハードトップが付属。いわゆる“バルケッタ”と“ベルリネッタ”双方のスタイルで楽しめるように設計されている。
フェラーリ製ストラダーレとしては初採用となった、カーボンモノコックに直接固定されるF130B型V12自然吸気エンジンは、もともと1992年シーズン用F1マシン由来のノジュラー鋳鉄製ブロックを持つ、自然吸気4.7L V型12気筒。
このV12ユニットは、1995年から2001年にかけてIMSAやFIAのスポーツカー耐久選手権を席巻した4Lスポーツカー「333SP」とともに、さらなる進化を遂げることになる。そして排気量を4.7Lに拡大したうえに、ロードカーとして適度な回転数と扱いやすいロードマナーを追求したV12ユニットは、最高出力520ps、最大トルク471Nmを発生。北米の専門誌『ロード&トラック』のテストでは、静止状態から時速60マイルまでわずか3.6秒、最高速度325km/hを記録した。
またストッピングパワーについては、巨大なローター(フロント14インチ、リア13.2インチ)をアルミピストンで制動するブレンボ製の巨大なブレーキが担っている。
もちろんエンジンやブレーキについての技術だけでなく、F50にはレーシングスタイルの燃料タンクやダッシュボードの液晶メーターなど、F1マシンを彷彿とさせるディテールがふんだんに盛り込まれている上に、レザーシートやエアコンディショナー、車高調整機能などの快適装備も充実していた。
そして、F40の生産台数が多すぎて希少性が損なわれているという批判を受けたフェラーリでは、F50では1998年の生産終了までの生産台数を349台に留めたことから、その希少性と価値からあっという間にコレクターズカーとしての地位を確立したのだ。