時代を先取りした1台だった
異業種合同プロジェクト「WiLL」ブランドの自動車第3弾として2002年8月に登場したWiLLサイファ。デザインモチーフは“ディスプレイ一体型ヘルメット”ということで、今でいうVRゴーグルのようなものだったのだろうか。
コンセプトカーのような内外装が魅力的
そんなテーマで作られたエクステリアは非常に個性的だ。縦にランプを4つ配した特徴的なヘッドライトをはじめ、UFOのように丸みを帯びて張り出したフェンダーやなんとも形容しがたいリアウインドウなど、コンセプトカーのデザインをそのまま市販化したようなものとなっていた。
その個性はインテリアでも同様で、サークル(円)モチーフと名付けられたそれは、ステアリングはもちろんメーターやセンタークラスター、エアコンのノブやドアトリム、シート表皮に至るまであらゆる部分に採用されている。円形のセンタークラスターなどは今見ると、のちのBMWミニを思わせる斬新なものとなっていた。
ちなみにボディカラーにもビビットな色合いが多く用意されており、そのカラー名も「MIDORI」や「AO」など、アルファベット表記の個性的なものとなっていた。ただ違うのは呼び名だけで、カラーコードは一般的なトヨタのものと同一となっていたのはご愛嬌だ(例えば「SIRO」のカラーコードは040のスーパーホワイトIIだった)。
こんなにぶっ飛んだ内外装を持ちながらも、ベースとなったのは初代ヴィッツであり、パワートレインも1.3L(FF車)と1.5L(4WD車)の直列4気筒DOHCエンジンに4速ATという大変常識的なものとなっていた。足まわりもヴィッツと同形状ということで、乗り味は非常に一般的なものだった。
ナビゲーションシステムの「G-BOOK」を標準装備
そんな個性的な出で立ちのWILLサイファだが、最大の特徴は通信機能を持ったナビゲーションシステムの「G-BOOK」を標準装備していたことだ。今でこそ通信機能を持った車載端末も珍しくないが、20年以上前にそれが存在していたことになる。
その仕組みは今と大きく変わらず、G-BOOK本体に専用通信モジュール(DCM)を搭載することで、携帯などを使うことなくデータ通信が可能となっていた(ただし別途月額使用料が必要)。データ通信によって最新のナビデータやメールの送受信、ニュースや天気予報の確認などが行えるというもの。
ただ惜しむらくは現在のように高速通信が可能な環境が整っていなかったため、信号待ちにメールをチェックしようとしても時間がかかって停車中に確認できなかったり、大容量の地図データはなかなかダウンロードが完了しなかったりという弱点も存在していた。
そして最大の問題は、G-BOOKのサービスがシステム老朽化に伴い2022年3月31日をもって終了してしまっているという点だ。そのため、WILLサイファに備わるG-BOOKは今後アップデートされることのない過去の遺物となっており、センタークラスター一体型となっているため、簡単に取り外すこともできないという状況だ。
幸いにもG-BOOKの下に2DINサイズのオーディオスペースが設けられているため、ここに別途ナビなどを装着することで引き続き快適なドライブを楽しむことはできるが、時代を先取りし過ぎた故の悲しい現実と言えるだろう。
とはいえ、こんなにチャレンジングな試みは異業種合同プロジェクトだからこそできたとも言え、このクルマがあったからこそ今の通信モジュール搭載の車両が存在しているとも考えれば、決してネタに走った変わり種車でないことはお分かりいただけるのではないだろうか。