メッキグリル×丸型ヘッドランプの60年代風ルック、原風景はミニ?
独立したメッキのフロントグリルにメッキのバンパー、それと丸型ヘッドランプの組み合わせというと、60年代の一般的な乗用車の顔つきの典型、ないしは様式美のようなものだった。今でも最もおなじみなのはクラシック「ミニ」だろうが、それにも「オースチン・セブン」の「さざ波グリル」や派生モデルの「ライレー・ウルフ/ウーズレー・ホーネット」の縦長グリルなどさまざまあり……という話は今回の本題ではないので置いておくが……。
2000年にクライスラーが「PTクルーザー」を出した際、その復古調のスタイルについて「特定の車種ではなくその時代のモチーフをイメージして再現したもの」と上手いことを言っていた。日本車でも日産から「Be-1」が登場した1987年当時、「ミニを思わす」といった見立てが多く見られた(筆者はむしろ往年の「スズライト」を連想していた)。
軽でレトロルックを先駆けたのはスバルの1BOXカー
ここからようやく本題に入るが、日本の軽自動車で、ひと頃、メッキのグリルでレトロ調の雰囲気を楽しませてくれるクルマが続々と登場したことを覚えている方も多いと思う。そのキッカケを作ったのが1BOXカーだったというのは意外といえば意外だが、スバルから登場した「サンバーディアス クラシック」(1994年)がレトロ調ブームの第1号車。
最初のモデルはクラシカルグリーンだったが、翌年にはブリックレッドを追加(写真のカタログはその時のもの)。グリルは飾りにつきカタログ中にさすがにリア置きエンジンの説明は省かれていたものの、人目をひくスタイルから、発売当時、花屋や当時のブティックのクルマとして人気を集めた。1999年には「ディアスワゴン クラシック」として、2代目となるデザインも登場した。
スバルでは他にも「ヴィヴィオ ビストロ」(1995年)、同「シフォン」(1996年)も登場。カタログに「ビストロに仲間がふえました」とやっているが、2パターンの異なるデザインのフロントグリルを装着し、前後ランプはいずれもメッキのベゼル付きの丸型でクラシックな雰囲気を演出していた。
さらに1999年登場の「プレオ」にも「ヨーロピアンスタイル」を名乗った「プレオ ネスタ」が登場。このモデルはよく見ればフード、左右フェンダー、バンパーがそっくり作り直されパーティングラインも自然なうえ、大小のランプは丸型ながらベゼルは付けず、グリルもメッキだったがデザインはややモダンと、レトロよりもモダンさが打ち出されていた。
ダイハツもオプティでレトロ路線を追撃
スバルのほかにメッキの顔つきに熱心だったのがダイハツだ。1996年にシリーズに追加された「オプティ クラシック」はその代表。もともとオプティは丸みを帯びた雰囲気重視のモデルだったが、笑顔の口元のような形状のグリルと、丸型だが専用デザインのヘッドライトの周囲にボディ形状に沿ったメッキのベゼルを装着するなど、さり気なくも凝った造りが施され、グリルの上部にデイムラーのような波状のデザインも。プロテインレザーのシート表皮など、質感へのこだわりも見せたモデルだった。
また軽自動車の新規格に合わせて1998年に登場したピラードハードトップの2代目オプティでもクラシックを設定。グリル形状は横幅が広がり、メッキのバンパーが添えられるなどして、よりこなれたデザインになった。2代目オプティには他にモダンなマスクの「ビークス」の設定もあった。
真正面から「本家」に寄せていった大本命・ミラ ジーノ
それとダイハツではもう1台、いよいよ核心に迫る(クラシックミニのイメージに限りなく近づけた)モデルとして1999年に登場したのが「ミラ ジーノ」。このモデルもノーズまわりではフード、左右フェンダーを標準車とはまったく別モノに作り変え、しかも前後の別体のメッキバンパーにはオーバーライダーまでつけた、時代考証的にもかなり念入りなクルマだった。
もちろんメッキのベゼル付き丸型ヘッドライトと台形風のグリルの組み合わせは、これはもう確信犯と言って口が悪ければクラシックミニへのオマージュともいうべき姿カタチ。しかも驚くべきことに「MINILITE special」と銘打った8本スポークのミニライトのアルミホイールを装着した仕様まで堂々とラインナップしていたのである。ちなみに3ドアの他に5ドアの設定もあった。
ここだけの話だが当時、クラシックミニ(35周年記念限定車だった)に乗っていた筆者は、うかつにも4ドアでパワステ付きだからいいかも……などと心なびかされそうになったものである。
このミラ ジーノは2004年には2代目にフルモデルチェンジ。専用ボディとなった2代目ではややオーバルな形状のヘッドライトや、ボディ形状になじませたランチアのどれかのモデルを思わせるようなリアコンビランプなどで洗練度を高め、インテリアもただシンプルなだけではない、味わいのあるデザインが与えられるなどしていた。
スズキもアルトCなど出していたけど影は薄かった
ほかにスズキでは「セルボモードC」(1995年)、「アルトC」(1999年)があった。が、この2モデルはこれまでにご紹介した他社のレトロ調モデルに較べ、肌感覚的には存在感が薄かったような気がする。手元でもアルトC(とアルトC2)のカタログがかろうじて残っていた。
復古調、懐古調と言い方はいろいろだが、要は量販車ゆえの画一化に飽き足らず、個性、味わいをより楽しみたいユーザーのために用意されたのがレトロ調の軽自動車だったと思う。