唯一路面と接する大事なパーツがタイヤ
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードはずばり「ゴム」だ。GT3などの世界で活躍するレーシングカーは性能調整され、メーカーごとで実力が拮抗するようになっている。そこで肝となるのがタイヤなのだ。同じことは別のスポーツでも起こっているというが……。
レースではマシンの性能が調整されるためタイヤが重要に
古今東西、タイヤの性能がモータースポーツでの勝敗を左右することはもはや周知の事実だ。厳格なレギュレーションによって、あるいは性能調整のひとつであるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)によって、エンジンパワーによる加速性能や、ダウンフォースに依存するコーナリング性能はそれほど差がつかない。だが、決定的に強い影響力を及ぼすのはタイヤである。
タイヤを履き替えただけで、数秒のタイム差を得る場合がある。コンマ1秒のアドバンテージを求めて開発費に大金を投じ、あるいは命をかけたアタックに挑むというのに、高性能のタイヤを履いただけでそのタイムを簡単に手にすることができるのだから、これは嘘か誠かマジックか……。
言ってみれば、ただの黒くて丸いだけのゴムの塊なのに、どこにそれほどのパワーが潜んでいるのか、不思議でならないのだ。
ゴムの重要性は卓球でも同じ
じつは、卓球の世界でも、同様の現象が起きているらしい。
目にも止まらぬ高速スマッシュが繰り返される。動体視力と反射神経が試される高速ドライブ型のプレーは迫力がある。その一方で、ボールを高速回転させ、相手のミスを誘うカットマンスタイルも面白い。上下左右にぐにゃりとボールの軌道を変化させる。長時間の打ち合いに持ち込み、敵の集中力を削ぐのだ。
プレースタイルはさまざまだけど、高速ドライブ型にせよカットマンスタイルにせよ、ラケットの反発力と回転力が影響するというのだ。
ラバーの開発には、自動車の免震メーカーが参入した。不快な振動を抑えることと、ボールに回転を与えることが技術的にどんな相関性があるのかわからないが、免震と反発には技術的な整合性がある。
ラケットのラバーは、消耗品でもある。使うほどに表面の傷や劣化が進み、性能が低下する。五輪代表レベルのプレーは、ラケットメーカーのサポートがあるだろうから、ほとんどプレーするたびに新品に交換するのだろう。だがアマチュアはそうそう贅沢もできないから、性能低下を承知で使い続けることになる。
なんだかプロドライバーとジェントルマンドライバーの違いのようでもある。タイヤメーカーのサポートがあるプロドライバーは無尽蔵に新品タイヤが供給される。だがアマチュアドライバーは、ゴムがすり減るまで使い続ける。新品タイヤが優れたグリップを発揮することを承知していても、である。
なんだかゴムって、罪作りだね。タイヤもラケットも……(笑)