衝撃的だった前期型B3リムジンだからこそ後期型にも期待
2022年5月25日に予約注文が日本で開始されたBMWアルピナ「B3」。ついにそのステアリングを握る機会に恵まれ、自動車ライターの西川 淳氏が「B3S」と「D3Sツーリング」に試乗した。そのレポートをお届けする。
ブッフローエで開発・生産された最終モデルを手に入れたい衝動に駆られた
本気で欲しいモデルがある。自分で色や仕様を選んでオーダーして待つということを久しぶりにやってみたくなったのだ(このところ、掘り出し物の中古車ばかり探していた)。そしてじつは大いに悩ましいことになっている(妄想ではあるが)。
そのモデルとはBMW「3シリーズ」(G20)ベースのアルピナである。ガソリンエンジンのB3か、ディーゼルのD3Sか、そこにリムジン(セダン)とツーリング(ワゴン)というボディ形状の掛け合わせも考えると4パターンの選択肢があるのだが、それが悩みのタネではない(いや、悩ましいけれど)。問題は新しくなった後期型の印象がガラリと変わったことだった。
まずは3シリーズのアルピナが欲しくなった理由から説明しよう。理由は2つ。まずはG20前期型ベースのB3リムジンアルラット(AWD)に衝撃を受けたから。そのドライブフィールがあまりに肌に合った。抱きついたら最後、もう絶対に離したくないと思ったほどに。それゆえ、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考会でも満点を投じた。アンダー1500万円で最高の実用車だと思っているのだ。
もう1つの理由は、そんなアルピナもBMW AGによるブランド買収が決定し、今後は開発も含めて本家(AG)に委ねられることになったからだ。それはそれで楽しみは尽きないけれど、ブッフローエで開発・生産された最後のモデルを買っておきたいという気持ちも大きい。
マイナーチェンジでガラリと変わったB3の乗り味
そうこうするうちに3シリーズのマイナーチェンジが近づき、ならばマイチェン後、すなわち後期型ベースのアルピナを乗ってから決めるのもいいな、などと妄想が勝手に膨らんだ。実際に買えるアテなどないというのに。クルマ好き幸せ脳の妄想癖というやつだ。
輸入元のニコルから新型B3のデモカーにナンバーがついたという知らせがあった。直近の日程をやりくりし嬉々として借りだして試乗に向かったのは言うまでもない。そして愕然となった。B3の乗り味が全く変わっていたのだ。おそらくスポーツ志向の強いユーザーには良い変化なのだと思う。節の効いたメリハリのある動きと乗り心地を有していたからだ。
けれども滑空するかのように転がりすぎる前期型のライドフィールを気に入っていた筆者にとっては、それは少々硬派に過ぎた。コツコツとホイールの当たりさえ感じ、タイヤの薄さを実感するドライブフィールはまさにスポーツカーのそれだったのだ。
前期型を中古で探すこともできるけれど、それじゃ最後にブッフローエへオーダーをかけるという楽しみがない。なによりマーケットに自分の好きな色があるとは思えない。できるだけアルピナっぽくない色か、もしくはいっそC3時代の白に青緑ストライプのようなノスタルジック路線で乗ってみたいなどという具合に妄想がすでに目一杯広がっていた。
好みはD3Sのフィーリングなのだが……
そうこうするうちに今度は後期型D3Sツーリングのデモカーにもナンバーがついた。これがまた素敵なカラーで、アルピナらしくないところも大いに気に入った。聞けばBMWインディビジュアルカラーのアーバングリーンというらしい。乗ってみれば意外にも前期型より少々当たりの柔らかな乗り心地になっていて、低中速域にて室内に入ってくるノイズも小さくなったように感じた。全体的には以前より好みの乗り味になっている。ひょっとするとD3Sには変化がなく、B3を大きく変えたから相対的にD3Sをよく感じたという可能性も残っているのだが……。
D3Sツーリングには都合1200kmほど試乗することができた。高速燃費は16km/Lあたりで、B3より3割ほど良い。燃料価格の差を考えると、やっぱりディーゼルは財布に優しい。乗り味も今となっては悪くない。ツーリングのライドフィールも気に入った。後期型ならD3Sツーリングで決まり、か。いや、とはいえSエンジンは捨て難く……。
アルピナ好きの妄想は今の所、そのあたりで宙ぶらりんになっている。