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「赤内装はイタリアでアルドさんが仕上げています」「えっ!? 最高じゃん!」 作業が進むフィアット500は夢と希望に満ちていた【週刊チンクエチェントVol.03】

1970年式のフィアット500L

フルレストアに近い作業が行われていたターコイズブルー号

名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートをする「週刊チンクエチェント」。第3回は「赤内装は嶋田さんっぽいんだよね」をお届けする。

新車としてデリバリーされたときから変わっていない組み合わせ

それから数日して、僕はチンクエチェント博物館の館長、深津浩之さんと電話で話していた。いったい用件が何だったのかはまったく覚えてないのだが、深津さんとは軽く20年を越えるおつきあい。仕事で御一緒させていただいてるのもたしかなのだけど、むしろ気心知れた昔からの仲間という感じだ。たまに電話で話すと用件よりも雑談の方が圧倒的に多くて、何のために電話したのか忘れちゃうこともあるくらい。そういう仲間、皆さんにもいるでしょう?

そんな雑談の中、深津さんは唐突にこんなことを言いだした。

深津さん「そういえば嶋田さんに乗ってもらうチンクエチェント、僕は個人的には赤内装の方がいいと思いますよ。だって、嶋田さんっぽいじゃないですか(笑)」

嶋田「……っぽい? ってどういうことっすか(笑)。俺は性格がわりと地味なんですから。ウソですけど。いや、でも根が暗いのはホントです。ってそんなことはどーでもよくて、じつは俺も赤内装の方が、紙でもWebでも映えるかな、なんて思ってたんですよ。ターコイズブルーに赤いインテリアとか、そんな組み合わせイタリア人しかやらないでしょ。ブラウン内装の方が全体的なまとまりはいいと思うし、オトナっぽい感じがいいなって思うけど、チョイスできるなら、赤かなぁ……」

ここがひとつのターニングポイントだった。

深津さん「両方とも販売車両として博物館のホームページに出してるから、欲しいっていう人が現れるかもしれないですけど、いっぺんに両方が売れちゃうことなんてないと思うし、売れるとしたらブラウンの方が先だとも思うんですよね。その組み合わせ、好きな人が多いじゃないですか?」

それ以前から博物館のウェブサイトにはストックリストができていて、販売できる車両のほとんどが、どんな作業を受けているのかを写真から知ることができるようになっていた。そのあたりはまたあらためてちゃんとご紹介しようと考えてるのだけど、ともあれ僕のところにあるクルマは博物館が手がけた11番目の車両で、その時点では作業前の写真しか掲載されていなかった。ブラウンの方もほぼ同様だった。どちらもボディカラー、インテリアカラーともに元のまま、おそらく組み合わせそのものは新車としてデリバリーされたときから変わっていないのだろう。

世界的にも屈指の存在であるグラッサーノ・レーシングで仕上げた1台だった

嶋田「たしかに。ターコイズに赤の組み合わせが自分に似合うって思える人の方が少ないような気もするし。……もちろん俺に似合うとも思ってないですけど」

深津さん「嶋田さんはチンクエチェントそのものが似合わないですよ(笑)。似合わないっていうより、ちょっと違和感。だって嶋田さんのイメージって、スーパーセヴンだったりスーパーカーだったり、僕にとってはそっちの方がかなり強いんで。だからこういう流れになって、正直、ビックリしましたよ。嶋田さんは18psにいつまで耐えられるんだろう、って(笑)」

嶋田「あ。それは自分でもそう思う(笑)。たしかにセヴンとか、500psだ600psだ700psだっていうクルマの試乗記、多かったですもんね。でもチンクエチェントだとか2CVみたいなクルマだってずっと嫌いじゃなかったし、65歳とかになってスピードに関心がなくなったらチンクエチェントに乗りたいな、なんて思ってたところはあるんですよ。いや、その領域にはまだまだぜんぜん達してないけど、自然な流れっていうのは大切にしたいタイプなんで」

深津さん「だからせめて内装が赤い方がいいんじゃないかな、って思ったんですよね。赤内装の方は今まだイタリアのアルドさんのところで作業が進んでて、今月の後半には完成する予定なんですけど、その作業の様子の写真、見ます? まだこれからホームページに載せないといけないんですけど」

嶋田「あ。アルドさんのところで組んでるクルマなんっすか? もしかしたらすっごく速いチンクエチェントになってたりして(笑)。写真、ぜひ見せてください」

そんなやりとりの後に送られてきたのが、メインカットを除く今回の写真だ。こうしてメディアに出すためじゃなく、あくまでも作業の記録であり、作業後の可否を博物館が判断するひとつの参考とするための写真。もちろん撮ってるのはイタリアの職人さんたちだ。なので見づらかったりわかりにくかったりするところもあるかもしれない。

でも、チンクエチェント博物館の伊藤精朗代表も深津館長も「包み隠したりするのは違うと思うし、あったことはそのまま正直に公表してもらって構わない。というか、むしろそうしてください」と言ってくださっているので、そのときにいただいた中で使えそうな写真をすべて、明るさだけ調整して掲載することにした。

ほかにもピントが合ってなかったり普通はこれを見ても意図がわからないだろうというカットもたくさんあって、写真群を何度も見てるうちに自然と理解できたのは、リフレッシュというよりほぼレストアというべき作業がなされてること。車体は全面的に手が入れられ、下まわりも同様。何もかもすべて剥ぎ取って、エンジンとトランスミッションはオーバーホール、サスペンションも全面的に組み直し、内装はほとんどすべてを新品パーツに換えて……。写真を眺めてると、早く実車を見たいという気持ちがどんどん膨らんでくる。

しかも組んでるのはアルド・グラッサーノさんのファクトリー、つまり「グラッサーノ・レーシング」だというところが、さらに気持ちをあおり立てる。アルドさんはクラシック・アバルト、レーシング・アバルト、そしてチンクエチェントに関しての、イタリアでの第一人者と呼ばれてる人なのだ。世界的にも屈指の存在だろう。チンクエチェント博物館の伊藤さんとは30年以上のおつきあい、であるはずだ。

僕は2018年、ミラノの60kmほど南の方にあるカステッレット・ディ・ブランドゥッツォというものすごーく読みにくい名前の片田舎のサーキットで、伊藤さんに紹介されてアルドさんにお会いしたことがある。めちゃめちゃニコやかで穏やかで優しい人だった。そのとき彼は貴重なクラシック・アバルトのレーシングカー2台をチェックのために走らせていて、それがもうめちゃくちゃいい音だしビックリするほど速かった。

さらにはお客さんが乗っているポルシェ935(!)のメンテナンスと走行サポートもやっていた。えー! このニコニコしてるおっさんが? である。どこの世界でも凄腕の人は穏やかだったりニコやかだったりすることが多いのだ。アルドさんが組むのなら、この赤内装のクルマ最高じゃん。

ここもひとつのターニングポイントだった。

そんなふうにして新型コロナウイルスのおかげで仕事的に大ダメージを喰らって廃業すら考えた僕の2020年は、12月を迎えて急激におもしろそうな方向へと転がりはじめた。そして年の瀬を迎える直前に、伊藤さんからさらに気持ちが盛り上がるニュースが届いたのだった。

*チンクエチェント博物館
https://museo500.com/

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