3カ月間アメリカを旅した愛車「ドル」のその後
これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。旅を終え、LAで無料で預かってくれる人を見つけて日本に帰ってきましたが、その後日談をレポートします。
大事にしてくれる人なら譲ってもいいかも……
2022年4月29日から約3カ月間にわたったトヨタ「ドルフィン」、愛称「ドル」との「米国放浪バンライフ」全33話を読んでいただいた。今回は、その後、ドルがどうなったか、後日談を報告しようと思う。
当初の希望では、誰かにドルを預かってもらい、年に何度かロサンゼルスに渡って旅を継続したいと虫のいいことを考えていた。すると、自動車部品工場の片隅に無料で置かせてくれる、という都合のいい人物も現れ、思いどおりの展開になっていた。
しかし、旅の終わりが近づく頃になって、もし、ドルを大事にしてくれる人がいれば譲ってもいい、という気持ちが芽生えてきた。決定的な理由は何もない。小さな理由が積み重なっての心の変化だった。旅行中も、6、7人から「売る気はない?」と声をかけられた。その気になれば、売れる価値はあるはずだった。とりあえず、ドルを預かってもらいながら、個人売買のサイトに出してみることにした。
クルマの個人売買が盛んなアメリカだがリスクも多い
ご存知のように、アメリカではクルマに限らず個人売買が盛んだ。ぼくがドルと出会ったのも、その手のサイトを通じてだった。もっとも知られているのが「Craigslist」だが、クルマの売買の専門家に聞くと、「OfferUp」というサイトがいろいろな意味でクオリティが高いという。大した金額ではないので両方のサイトに出してみては、とアドバイスをもらった。
とはいっても、この手のサイトは海外からのアクセスはできない。現物を見たいといわれても、対応も不可能。そこで登場するのが、またまたAKIRA隊長(LAで旅行代理店を営む)である。以前からお世話になりっぱなしだが、もうひと肌脱いで「for sale」のハンドリングを担当してもらうことになった。
日本に戻ると、すぐに隊長から連絡が入り、何件も問い合わせが来ているという。しかし、怪しい問い合わせが多いうえ、詐欺まがいのトラブルもあるらしい。実際に、せっかく話がまとまったのに、支払いの細かい条件が折り合わずにNGになったこともあった。
サンディエゴのドルフィン・マニアにキーを渡す
そう簡単にはまとまらないんだなぁ、と諦めかけた頃に現れたのが、ラッセルさんというサンディエゴに住む人物だった。
すでに何台もモーターホームを乗り継いできたというマニアで、問い合わせ内容も的を射ている。雨漏りがあったことやシャワールームの床が壊れていることなどを話すと、きちんと直して仕上げたい、こ
雨漏りや水まわりまでラッセルさんたちのDIYでレストア
その後、ラッセルさんと息子のアダム、さらには友人で経験豊富なメカニックのホセさんによるレストア大作業が始まった。まず、ルーフの雨漏りは、シリコンを含むRV用特殊ペイントを使って徹底的にコーティングを行った。写真を見ただけで、根気がいる大変な作業だったことが分かる。
シャワーのフロアパンは、サーファーのアダムがどうしても直したかった部分。しかし、パンが変形であるために、いくら探しても代用できる部品は見つからなかった。そこで完全防水シートを貼って、そこにタイルを流し込むというスゴ技に出た。まさに、ホセさんの知見の賜物といえる仕事だった。
クラックが入っていた洗面ボウルは、リペアキットを使って修理して再ペイント。シャワールームに比べれば楽だった、とさらっと言われた。トイレを設置するかどうかは、今後の課題だそうだ。
直したらいきなりLA~NYのロングドライブを敢行!
機関については、冷却系のレストア、クーラントの交換を行った。やはり坂道で水温が上がる状態で、ぼくも一番悩まされた部分だったが、ていねいなレストアですべて解消したそうだ。また、オイル類をすべて交換するとエンジンの調子も格段に良くなったという。
仕上げはボディだ。オリジナルのデカールを剥がして鈑金作業をした後、なんと独創的な白とグリーンのツートンに変身させたのだ。そして、「COLUMBA」という新しい名前のプレートがつけられた。う~ん、「ドル」よりカッコいいか。
ラッセル親子は、さっそくニューヨークまでの長距離ドライブを敢行。無事にツアーを終えて帰ってきた。まあ、悔しいけど、レストアにしても試運転にしても、やることのスケールが違うと脱帽した。
* * *
ラッセルさんは、「また、ドルフィンで旅をしたいんだったら、いつでも貸してあげるよ。え? お金なんていらないよ」と、真に受けていいのか、戸惑うようなオファーをくれている。最高のオーナーのメンテを受けて幸せなドルとの再会が実現するのか? 最近、またアメリカ地図をときどき広げている。
■「米国放浪バンライフ」連載記事一覧はこちら