ハイオーナーカー路線を続けながらユーザーの満足度を高めようとしていた
「ビバリーヒルズの共感ローレル」。今風にくだけて言えば「やっちゃいましたね」的なコピーで1984年10月に登場した(照れ臭かったのか、ほどなく「グレードの薫り。共感ローレル」にあっさりと改められた)のが日産の5代目C32型ローレルだった。
ローレルとスカイラインの両者見まごうほどの似た空気感
ちなみに冒頭のコピーだが、筆者はリアルタイムで記憶がなく、今回この記事の準備のために当時のカタログを見返して気づかされたもの。筆者の場合、世代的にはなんといっても初代のエレガントなスタイルと、2代目の「ゆっくり走ろう、おお、ローレル」の短いCMソングであれば脳裏に焼き付いているが……。
いずれにしても、ビバリーヒルズか東京・多摩地区か(?)は別にしても、カタログのページを開いた瞬間にプンプンと漂ってくる時代がかった当時の高級車観は、じつに懐かしい。C32型ローレルでいえば、なによりインパクトがあるのは、縦、横、斜めと定規で描いたような直線基調のスタイリングだ。
じつは同世代の7thスカイラインも同様の直線基調で(チラッとカタログで並べた写真も載せておこう)、スカイラインはホイールベースこそローレルより55mm短かったものの、ボディカラーが白の単色だったりすると両者見まごうほどの似た空気感。高級ハイオーナーカーのローレルとスポーティセダンのスカイラインが史上最接近した瞬間でもあった。
なんでもその直線基調のスタイリングは、前世代(4代目)の丸みを帯びた欧州調といわれたスタイリング(筆者はまったくそうは思わなかったが)の反省、反動から生まれたものだったとか。さらに駄目押しというと言葉がよくないが、ビュイックなど当時のアメリカ車を連想しないわけにはいかない、ほぼ垂直に立ったブロックパターンのメッキのフロントグリルは何をか言わんや。
このフロントグリルは、ローレルが3代目(C230型)の途中でマイナーチェンジを受けた際、角形4灯ヘッドライトとともに与えられた以降のもので、4代目(C31型)を経て4ドアハードトップではこの5代目にも踏襲されたデザイン。なおローレルで最上級の「メダリスト」のグレード名が登場したのも、3代目でこのグリルの登場と同時だった。
話は前後するが4ドアハードトップが登場した3代目以降、ローレルのボディタイプは4ドアハードトップと4ドアセダンの2本立てで、4代目とこの5代目ではハードトップもセダンも6ライトのサイドウインドウが採用され、ゴージャス感に彩りを添えた。
ライバルだったトヨタ・マークIIと妖艶さを競っていた
ゴージャス感といえば内装もそうだ。ローレルはもともとルーズクッション風のシートを採用するなど、ラグジュアリーな雰囲気を打ち出していたが、この5代目では目にもまばゆいばかりのワインレッド(バーガンディなどとも呼ばれた)の内装色をシート表皮、インパネ、ステアリング、トリム類に採用。ライバルだったトヨタ・マークIIとその妖艶さ(?)を競っている。
また装備関係も、シートヒーターやミラー連動の6WAYマイコンパワーシートをはじめ、エミネンスサウンドシステムと呼ばれたオートボリュームコントロール、7極グラフィックイコライザー付きのオーディオや、液晶の特性を使い昼夜間の切り換えをおこなう世界初のオートリフレックスルームミラーなども設定された。
それともうひとつ、ミラー関係で世界初の電動格納式カラードドアミラーがこのローレルに採用されたことが見逃せない。カタログにも「世界初」とうたわれており、昔の写真用品のケンコーのカタログのクロスフィルターの作例写真のようなキラリ! と光の筋を入れた、比較的大きめの写真とともに紹介している。なお同じ機能はマークIIも翌1985年にはすぐさま投入していた。さすがトヨタ、である。
L型に代わる当時としては新世代の日産のパワーユニットを搭載
一方でメカニズム関係では、この5代目ローレルでは2機種のエンジンが新搭載された。ひとつはV6・2LターボのVG20E・T型(170ps/22.0kgm)、もうひとつが直列6気筒・2LのRB20E型(130ps/18.5kgm)だった。いずれもそれまでのL型に代わる当時としては新世代の日産のパワーユニットである。
組み合わせるATについても、パワー・エコノミー自動切り替え式スーパートルコンとし、パワーシフトが選べるマニュアルスイッチも備えたものだった。前記のパワーユニットを搭載した4ドアハードトップでは、フロント:ストラット、リア:セミトレーリングアームのサスペンション、VG20E・T搭載車では4輪ディスクブレーキも標準採用していた。
カタログには日本語の単語で「豪華」「先進」「格調」といったコトバが並ぶ。同時期の7thスカイラインは電子制御式4輪操舵のHICASを投入し、「やわらかい高性能」「人にやさしい、都市工学」と、それとなくだったが、スカイラインらしく走りを訴求。対してローレルは、初代からのハイオーナーカー路線を続けながら、ユーザーの満足度をいかに高めようか……と腐心しているクルマのようにも見えた。
事実で言えば、名ブランドのスカイラインとのタッグをもってしても、この時のマークII/チェイサー/クレスタの牙城を崩すまでには至らなかった。