はたらくクルマの個人所有車50台が集まった「商用車ミーティング関東」
トラック、バス、タクシーといったいわゆる「はたらくクルマ」を対象としたイベントとして、愛知のトヨタ博物館で開催されてきた「商用車ミーティング」。このイベントを関東圏でも開催しようと、バスの愛好家サークル「千城バス」が「暖簾分け」の形でイベント名の使用許諾を得て、さる2023年5月14日(日)に千葉県・長生郡長柄町の都市農村交流センター前駐車場で開催したのが、この「商用車ミーティング関東」である。当日の会場には大小さまざまなはたらくクルマ約50台が集まった。
上級グレードの豪華さよりロワー・グレードのシンプルさを愛する人々
現在ではひとつの車種にも装備の多少やエンジンの違いによって多くのグレードが用意され、選べるオプションも無数にある。しかしかつてのクルマには、今ほど多様なグレードは用意されていなかった。
基本的にはベースグレードとなる「スタンダード(標準車)」と、上級グレードの「デラックス」の2種のみという場合がほとんどで、スタンダードはタクシーや営業車、デラックスは裕福な個人オーナーが主なユーザー層。高性能な「GT」グレードが生まれたり、上位モデルが細分化されより多くのグレードが加えられるようになったのは1960年代の半ば以降だろうか。
クルマ文化のなかには、「スタンダード趣味」とでも呼ぶべきジャンルがある。過度な装備や華美な装飾が施された上位モデルよりも、そのクルマのもっとも素の状態であるベースグレードこそ好ましい、という嗜好で、例えるならば、日光東照宮の豪華絢爛よりも京都龍安寺石庭の侘び寂びだろうか。
1970年代も後半になってくるとスタンダード・グレードは「標準車」という意味合いよりも、その車種の価格帯の下限「○○万円から」という釣り文句のためだけに存在し、実際はほとんどオーダーの入らない受注生産モデルとなっていった。だが、それでもシンプルなベーシック・グレードを愛車にしたいと思うファンは今も昔も一定数存在する。
Y31セドリックは残念ながら(?)下から2番目のグレード
商用車ミーティング関東の会場の一角には色とりどりの「タクシー」が停まっている。もちろんこれらもイベントの参加車両。その先頭に展示されていた日産「セドリック」のオーナー、新戸部啓太さんに声をかけてみた。
「Y31セドリックです。1990年式で、Cピラーにオペラウインドウが付く前期型。セドリック営業車というのがカタログの正式車名ですね。TVドラマ『西部警察』に登場する警察車両を見て、ベーシックグレートのセダンにハマりました。本当は一番ベーシックな“スタンダード”が良かったのですが、これは下から2番目の“カスタム”というグレードです」
セダンのベーシック・グレード、そのタクシーが大好きという新戸部さんは、他にもう1台のセドリックと、さらにクラウンのタクシーも所有しているそうだ。
LPG車の苦労を補って余りあるタクシー所有の喜び
「この個体は8年ほど前にある事業者さんから手に入れて、自分でナンバーを取りました。普段は自家用車として通勤にも使っています。ルーフの行灯はイベント展示の時だけ屋根に置くようにオークションで手に入れたもので、じつはこのクルマが働いていた事業者のものではないんですけどね(笑)」
と語る新戸部さん。後部座席の足元に「ご乗車ありがとうございます」の文字が書かれた純正マットが敷かれた車内に置かれた写真アルバムを見せていただくと、それは日本全国を行脚して撮り溜めた膨大なタクシーの写真集。新戸部さんのタクシー愛もひしひしと伝わってくる。
「LPG車なのでスタンドが少なく苦労しますが、やはりベーシックなセダンのタクシーの魅力は、そんな苦労を補って余りあります」。
それは、イベントに参加していた他の「タクシー・オーナー」の皆さん全員に共通の想いだろう。