50年の間ずっとイタリアの道を走ってきたこのクルマをいよいよ輸入
名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートをする「週刊チンクエチェント」。第4回は「ターコイズブルー×レッド号に決まる流れになっていた?」をお届けする。
イタリア人らしい茶目っ気のある写真にほっこり
クリスマスイヴの2日前に伊藤さんから届いたメールには、クルマが完成して、船積みのためにアルドさんの工場から搬出されたと記されていた。完成したターコイズブルー×レッドのチンクエチェントの写真も貼付されていた。ひゃっほー! である。
そして、すべての作業が終わったらしい完成形の写真をひとつひとつ眺めていて、僕は思わず噴き出した。……何だこりゃ? である。チンクエチェントの運転席に、お世辞にもかわいらしいとはいえないちょっとばかり不細工なサンタクロースが座ってる写真が現れたのだ。次の写真には、ルーフキャリアをつけ、バスケットを背負い、子供たちへのプレゼントやスキー板を載せて、クリスマス仕様へと姿を変えたチンクエチェントが写ってた。伊藤さんによると、ちょうどクリスマスのタイミングだったからアルドさんが茶目っ気で装飾してくれたらしい。
ああ、平和な気持ちになれたな、と思った。そういう気持ちを与えてくれるクルマなのだな、とも。その頃はまだまだ新型コロナウイルスの行方が誰にも予想できず、日本でも感染者の数がただただ爆上がりしていたタイミング。ふとした瞬間に殺伐とした気持ちに苛まされて、綺麗さっぱり健やかな気分でいられる人なんてほとんどいなかったはずだ。
イタリアだって信じられないくらいのダメージを受けた。初期の頃に報道されてたことを思い出すと、今でも心が痛む。忘れることなんて、とてもできやしない。ましてやグラッサーノ・レーシングがあるアレッサンドリアは3月の頭にいち早く隔離対象となったエリアのひとつで、驚くほどたくさんの方々が亡くなっている。訊ねてはいないしそんな心ないことはしたくもないが、アルドさんのまわりでも命を失った方が少なからずいたことは簡単に想像できる。
それでもこうして相手が明るい気持ちになれるような気配りをしてくれるのは、いうまでもなくアルドさんの人柄なんだと思う。けれど、これがフツーのクルマだったら、アルドさんもこういう装飾を思いついたりすることはなかったんじゃないか? とも思うのだ。チンクエチェントのキャラクターのなせるワザ、というところは間違いなくあったことだろう。
ただでさえ思わずニンマリさせられるチンクエチェントのたたずまい。パッと見ただけで何だかなごんだ気持ちにさせられるチンクエチェントの姿かたち。考えてみると、このクルマはすごいチカラを持ってるんだな……なんてあらためて感じさせられたものだった。もともとチンクエチェントは嫌いじゃなかったけど、その「好き」が次第に大きくなってきてるのを実感させられる。