フォードV8を積んだシックなイタリアン2+2 GTクーペ
1970年代中ごろ、子どもたちの周りにあるさまざまなモノがクルマ関連グッズと化した空前絶後の「スーパーカーブーム」。当時の子どもたちを熱狂させた名車の数々を振り返るとともに、今もし買うならいくらなのか? 最近のオークション相場をチェック。今回は「パンテーラ」で有名なデ・トマソが1972年に発売した2ドアクーペ「ロンシャン」です。
ハイレベルなスーパーカー小僧だけが注目していた
いつの時代にもクルマ談議においてウンチクを披露したがる人がいるものだが、スーパーカーブーム全盛時の子どもたちの中にもそのような志向の物知りハカセ君がいた。この、物知りハカセ君のスーパーカー講座においてよく話題となったのが、名脇役としてブームを盛り上げたマイナーなモデルたちだ。フロントにフォード製のV型8気筒「クリーブランド」エンジンを積んでいたデ・トマソ「ロンシャン」は、その代表格である。
デ・トマソのプロダクションモデルといえば、1970年に発表された「パンテーラ」が圧倒的に有名。デ・トマソ製スーパースポーツカーの歴史にちょっと詳しい少年たちが話題にしていたのが、1964年発表の「ヴァレルンガ」や1966年発表の「マングスタ」であった。そして、さらに知識で上をいく物知りハカセ君が一般的な学力の子どもたちに解説してくれていたのが、4ドアサルーンでありながらエキゾチックカーとして扱われた「ドーヴィル」と、2ドアクーペの「ロンシャン」だ。前者は1970年、後者は1972年に登場した。
ロンシャンの魅力に気づいていた大人は多かった
パンテーラとドーヴィルをデザインしたトム・ジャーダ(カロッツェリア・ギアの当時のチーフスタイリスト)が手がけたロンシャンの2ドアボディがビックリするほど大人しい印象だったこともあり、ウェッジシェイプ好きのハッピーキッズたちはまったく感動しなかった。だが、つねに冷静沈着な物知りハカセ君は、飽きのこないシンプルなスタイルの中にイタリアン2+2GTとしての普遍的なカッコよさを見出していたのだ。ちなみに、ドーヴィルのホイールベースを短くしたモデルがロンシャンであった。
一般的な子どもたちにはピンとこなかったが、エキゾチックカーのことが好きだった当時の大人たちもロンシャンの素晴らしさを理解しており、アメリカ市場においてパンテーラの販売が不振になったときにデ・トマソの主力車種として生産されたといわれている。そして、マセラティからロンシャンをベースとした「キャラミ」が1976年に登場しているので、物知り博士君だけにとどまらず、このクルマの魅力に気づいていた大人がたくさんいたのであった。