東名高速の厚木ランプのループで感じた高い安定性
この白いディーノ、じつは出戻りのクルマで正直言って状態は良くなかった。カーグラのテストでもファンベルトが切れるハプニングに見舞われた。でも、評価は非常に高かったと記憶するが、4台あったディーノの中でも美しいブルーメタリックのボディを持った新車のGTSはやはり別格だった。
幸いなことに4台のうち3台は乗った。白、赤のクーペ、そしてブルーメタリックのGTSである。新車のディーノに乗ったジャーナリストは日本ではおそらく限りなく少ないと思う。そもそも海外に行かない限り乗るチャンスはなかったのだから……。
あまり調子のよくない、というか中古になると当時のディーノは決まって全開からアクセルを戻すと、ひどいアフターバーンに見舞われたものである。ところが、新車ときたら、アクセルを戻すと高周波のキーンという得も言われぬサウンドを発する。じつはそれが聞きたくて、必要もないのにアクセルを戻して、サウンドを楽しんだ。
ハンドリングの良さは申し分なし。東名高速の厚木ランプのループを高い速度でも平然と回っていった。国産車ではあり得ない芸当で、絶対的な瞬発力こそ同時期に誕生したポルシェ「カレラRS」にはかなわなかったが、その美貌とサウンド、それにコーナリング性能では勝っていたように思う。
当時いわゆるコンパクトサイズの高性能スポーツとしてはこのディーノ246GT、アルファ ロメオ「モントリオール」、それにポルシェ911カレラRSがあった。じつにラッキーなことにすべて乗ることができ、ディーノとポルシェは新車。そしてモントリオールは走行4000km程度のほぼ新車である。
それぞれ違う個性を持っていて、とにかく俊敏で速いのはポルシェ。ダントツだった。ディーノは最高速というか高速に達するのに時間がかかるが、やはり速い。これに対してモントリオールは唯一V8エンジンを搭載しながら、どちらかと言えばスポーツカーというよりもラグジュアリーカー的な印象が強かった。ただし、クラッチは半クラッチがほぼ使えない、いわゆるレーシングクラッチ的なものが入っていたように思う。だからよくエンストした。一番坂道発進をしたくないクルマだった。「Tipo33」のレーシングエンジンが母体だったからかもしれない。スピカ製の燃料噴射を持ち、始動時に独特な音を立てた。
■「クルマ昔噺」連載記事一覧はこちら