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せっかく一緒に暮らすことになるチンクエチェントを、僕は嫌いになりたくない【週刊チンクエチェントVol.05】

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TEXT: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)  PHOTO: 嶋田智之/チンクエチェント博物館

ツインエアの出来がめちゃめちゃいいのがよくない

そんなふうに気持ちが盛り上がる反面、ますます大きくなってきた「だいじょーぶか……?」な疑念は何だったかといえば、このクルマを日々のアシに使うことにしてあれやこれや支障は出ないのか? だった。それまでの経験から、このちっぽけな499.5cc18psがどれくらいなものか、わかってる。

そのうえ僕は、あくまでも業務上のおつきあいではあるけれど、500psだ600psだ700psだのクルマや0-100km/h加速2.9秒だとか2.7秒だとかのクルマを走らせることも珍しくないし、その楽しさと気持ちよさも身体に染みついてる。ケータハム「スーパーセブン」で数年間、レースもやらせてもらった。自分のクルマだって240km/hくらいは出るはずだ。若かった頃みたいに無闇矢鱈と飛ばしたりはしないけど、街乗りチョイ乗りならともかくとして、「どこに行くにもこれで走っていく」が自分にできるのか?

その気持ちを誰かにわかってほしいとも思わないし、理解してもらえると期待してもいない。そんなアンチソーシャルめいたこと考えるなんて狂ってるんじゃないか? と誹られるかもしれないことだって覚悟してる。だけどこれ、その頃の僕にとってはかなりマジメな「だいじょーぶか……?」だったのだ。

以前からわりと好感を持っていて、せっかく長期で預からせていただくことになったチンクエチェントを、僕は嫌いになりたくない。といって、近場の散歩にはチンクエチェントで、遠くへ行くときには別のクルマで、という二枚舌みたいなやり方は、性格的に無理だ。

そこでまず思いついたのは、日々、遅く走ってみよう、ということだった。年末年始にたまたま某誌の仕事にからめて末裔といえるフィアット「500Cツインエア」を10日間ほど預かることになってたから、走るときには走行モードはECO、シフトもシーケンシャル操作は自分に禁じてAT状態のみ、アクセル開度は半分弱まで、と決めた。

うん。遅い。遅いというか、ちゃんとじれったい。そういう走り方に徹すると、500Cツインエアは都合よくのんびりだ。街中ではスタートの段階から隣の車線のクルマにやんわりと置いていかれるし、高速道路にすべり込めば最も左のレーンが似つかわしい感じだ。おまけにその状態で長く高速巡航をしていたら、燃費計は25km/Lを超えた。

でも、決定的にトルクが太いから巡航に苦労することはないし、登り坂では速度が落ちていく代わりにギアが一段落ちるから、まったく困ったことにはならない。もちろんグッと右足にチカラを込めれば875ccという排気量が信じられなくなるくらい活発に走ってくれることは、何十回も体験してよーくわかってる。ツインエアというエンジン、めちゃめちゃ出来がいいのである。クルマとしての完成度もかなり高い。それを知ってるだけに、遅く走ってみようという試みは3日ともたず、当たり前のようにツインエア・エンジンの魅力をとっぷりと味わうようになってしまった。そう、今、あなたの頭の中に浮かんで来た「バカなの?」という言葉は、僕の頭の中にも浮かんで来てる。

「週刊チンクエチェント」の連載が終わったら、500Cツインエアを買ってアシにするのもいいかな、とスタートしてもいないのに考えていたくらいなのだから……。

*チンクエチェント博物館
https://museo500.com/

■「週刊チンクエチェント」連載記事一覧はこちら

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  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー雑誌の『ROSSO』やフェラーリ専門誌『Scuderia』の総編集長を歴任した後に独立。クルマとヒトを柱に据え、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントやラジオ番組などではトークのゲストとして、クルマの楽しさを、ときにマニアックに、ときに解りやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは自動車メディア業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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