シュミレーターの活用で本戦の盛り上がりに期待
2023年5月24日(水)~26日(金)、神奈川県のパシフィコ横浜では、公益社団法人自動車技術会(自技会)が主催する国内最大級の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2023 YOKOHAMA」が開催された。そこに同じ自技会が主催している「学生フォーミュラ日本大会」のブースも出展されていた。といっても学生フォーミュラのマシンが展示されるのではなく、出展となったのは学生フォーミュラシミュレーターである。
ブースには3台のシミュレーターを展示
「人とくるまのテクノロジー展」は499社の出展するリアル展とオンライン展(5月17日~6月7日)のハイブリッド開催となっており、この横浜展に続き7月5日(水)~6日(金)には名古屋展が予定されている。行動制限が緩和されたこともあって今回の横浜でのリアル展には3日間でのべ6万3810名もの来場者を集めることとなった。
「学生フォーミュラ」とは、大学や専門学校に在籍する学生がチームを作り、自らアイデアや技術を盛り込んだオリジナルの小型フォーミュラマシンを製作。車両の企画からものづくり、さらには車両を使ったビジネス構想、そして車両の出来を競うもので、日本大会は2003年にスタート、今年で21回目を数える大会となっている。ちなみにその元となったのは、1981年にアメリカで始まった「Formula SAE」。現在では世界各国でほぼ同一のレギュレーションを採用して学生フォーミュラの競技会が開催されている。
その第21回大会「学生フォーミュラ日本大会2023」は静岡県袋井市/掛川市の小笠山総合運動公園(エコパ)を舞台に、2023年8月28日(月)~9月2日(土)の6日間の日程で開催される。今回の「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」では、日本大会のPRも兼ねての展示であるが、ブースに並ぶのは3台のシミュレーターであった。
コースは大会が開催されている小笠山総合運動公園
シミュレーターは、東京農工大の学生フォーミュラチーム「TUAT Formula」が開発したもの。学生フォーミュラ日本大会は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、2020年および2021年の本大会(動的審査)が中止となってしまった。そこで、新たな取り組みとして「学生フォーミュラ向けのシミュレーターを作る」という自技会の企画発案のタイミングと重なったことから、制作となった。
もちろん当初は専門業者に制作を依頼することも考えられていたようだが、学生フォーミュラに情熱を持って取り組んでいる学生に作ってもらったほうが……といった考えもあり、学生フォーミュラ公式サイトを通じてシミュレーター開発協力を呼びかけたところ、複数のチームが応じた。最終的に「TUAT」チームの柚木 希さん、本同直人さん、村松滉平さんに決定したのであった。
コースは学生フォーミュラ日本大会が開催されている静岡県の小笠山総合運動公園(エコパ)。基本的にはフラットで広い駐車場だが、ここに自技会側が情報を提供し、パイロンを置いていった特設コースとなる。シミュレーターで使われるのは「アセットコルサ」と呼ばれるPC用レーシングシミュレーター。備えられている「MOD」拡張機能を使って、独自にコースや車両を制作できることから、エコパの特設コースはもちろん、彼らが製作し出走させるはずだった「幻の」NK16を作り上げている。
「学生フォーミュラの活動をサポートするツール」としての存在
当初は学生フォーミュラ認知のための展示会用といったイメージだったが、ドライバーの習熟はもちろん、モデリング情報で自チームのマシンのデータを入れ込むことが可能。さらにパラメータをいじることでセットアップも変更していくことができるため、モデルベース開発にも使える。現在は「学生フォーミュラの活動をサポートするツール」としての存在だ。
シミュレーター上で性能評価を行うことで、実車の実物での制作の回数を抑え、開発スピードを向上させること、ひいては日本の学生フォーミュラ全体の技術レベルの向上にもつながる。また、海外からの参加チームにとっても、シミュレーターの存在は心強いと言える。自技会ではMODを使うためのセミナー開催も行っており、誰もが使えるシミュレーターを目指している。
シミュレーターで運転ができる車両ではICV(内燃機関車両)クラスに2020年に参戦予定であった東京農工大学のNK16と、その諸元を元にEV車両としてアレンジしたNK16Eの2台に、展示会などのデモンストレーション用の子ども向けにアレンジしたNK16Cの3機種をラインナップ。現在バージョン2となっているが、当初は1種目(エンデュランス)しか設定のなかった動的審査の項目に2種目(アクセラレーションとスキッドパッド)が追加されている。
アクセラレーション(加速性能審査)など、必要性はないのではないか? と考えてしまうのだが、じつは、本大会の際のアクセラレーション審査の会場への動線の確認にも使えるのだ。コロナ禍で本大会に出場の機会がなかった学生にとっては、先輩の後について現場を見て回ることもなかったことで、実際のコースでの走行以外の部分でも未知の領域が多かったことなのだろう。実際に2023年の参戦チームの中には、ミスコースなども多かった。
遠方から本大会へやって来てまさにぶっつけ本番で臨んでいたチームも、シミュレーターを活用することで、事前の準備をきっちり整え、本大会に臨むことができるはずだ。2022年、3年ぶりの本大会開催では、各チームのレベルダウンが囁かれたが、2023年は再び以前のようなレベルの高い大会になることを期待したい。