1962年式シトロエン2CVサハラが「コッパディ小海2023」を走った!
シトロエン「2CV」といえば、カーマニアならずとも多くの人に知られているフランスの国民車。人気アニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』で、花嫁姿のクラリスが悪党に追われて運転しているカーチェイスのシーンも有名だ。クラシックなFF車の2CVだが、少数ながら前後にエンジンを搭載した4WDモデル「サハラ」が存在したのをご存知だろうか。きわめて希少な2CVサハラが2023年4月22~23日に開催されたクラシックカーラリー「コッパディ小海2023」に参加したレポートをお届けしよう。
前後に2基のエンジンを搭載する2CVサハラは生産台数わずか700台弱
シトロエン2CVは1948年に発表、翌1949年から1990年までの約半世紀にわたり生産されるという大ロングセラーを達成した。わが国でも、車名である「2CV」から「2馬力」といった愛称も与えられ(実際には最初期型でも最高出力9馬力なので、あくまで洒落)、合理的な設計、独創的なメカニズム、抜群の乗り心地は、多くの愛好家を満足させている。
2023年4月22日(土)、長野県にあるリゾートホテル「ガトーキングダム小海」は32回目を迎えたイベント「コッパディ小海」のスタートおよびゴール会場となっていた。日本でイタリア方式のクラシックカーラリーを定着させた老舗イベントに、日本各地からクラシックカーが集結した。そんな中、シトロエン2CVも数時間後のスタートに備えて、オーナーはすでに参加ゼッケンを貼り終えてエンジンルームを覗き込んでいた。
おや、前輪駆動車(FF)の2CVだが、なにか違和感がある。本来、トランクが備わっている車両後部にもエンジンらしきものが見えるのだ。フロントのエンジンの前で作業をしているオーナーに伺ったところ、じつはただの2CVでないことが判明した。
シトロエン「2CVサハラ」という、前後に2基のエンジンを搭載したスペシャルなモデルで、かつてフランスの植民地だった北アフリカの国々のさまざまな作業現場での移動を目的に、2CVをベースに作られた4輪駆動車なのだ。生産台数はわずか700台弱。世界的にも希少な2CVである。
FFの2CVとはディテールも各所が異なり興味深い
ノーマルの2CVとの違いを見てみると、ツインエンジンということもあり、キーとプッシュ式のスターターは当然、前後用に2つ備わっている。ノーマルではバルクヘッドから伸びる特徴的なシフトロッドも、サハラではフロアから生えている。そのギアボックスの右側に付いているのは2駆と4駆を切り替えるトランスファーだ。
ハンモック式のシートは変わらないが、なんと、シート下には燃料タンクがそれぞれ左右に収まっている。そして給油口のためにドアに穴が開けれられているのにも驚きだ。
エンジンは2CVの初期モデル「AZ」と同じ12馬力の水平対向2気筒OHVを前後それぞれに搭載している。
増えた車重を補うためにタイヤサイズは、ノーマルの125R400サイズに対して、車格の大きな「トラクシオンアヴァン」の165R400に近い155R400にすることで対応している。
入手したばかりのサハラをラリーで実走テスト
世にも珍しい前後エンジン搭載4WD車、2CVサハラのオーナーは埼玉県から参加の大畑仁志さん。じつはこのサハラを手に入れたのは、まだ数カ月前のことだという。大胆なことに、前オーナーが長年動かしていなかったサハラの実動チェックを行うため、今回のコッパディ小海にエントリーしたそうだ。
大畑さんはサハラの入手後、今回コ・ドライバーを務める原嶋明男さんの手を借りて、ダメージのあったパーツや、オリジナルではない代替パーツが装着されていた部分をオリジナルへと戻す作業などをしたそうだ。原嶋さんはシトロエン仲間の間で「2CVを知り尽くした男」とリスペクトされている存在。今回の同行は心強いだろう。
コッパディ小海スタート会場までは積載車で持ってきたというサハラ。なんだかフロント側のエンジンに不整脈があるということで、エンジンルームを開けてイグニッションコイルを交換していた。作業後はアイドリングもスムーズになり、無事にスタートできそうだ。
残念ながら途中でリタイアするも収穫は大きい
基本的に年式順でのスタートとなるコッパディ小海。最初の出走はなんと99年前の1924年式ブガッティ「ブレシア」だ。小海町・黒澤 弘町長の振り上げるフラッグを合図にスタート。1962年製のサハラは29番目、こちらも軽快な空冷サウンドを響かせながらスタートし、ワインディングへと躍り出た。
ひとつ目のチェックポイントを過ぎ、さらに気持ちの良い八ヶ岳の麓をクラシックカーたちが駆け抜ける。ふたつ目のチェックポイントでは「PC競技」。決められた区間を設定されたタイムにいかに近く、正確に走行できるかを競う。
さらにコースは諏訪湖畔へ。ここでランチで一息ついたあとは、霧ヶ峰から白樺湖、蓼科を抜ける最高に気持ちのよいコースを通り、メルヘン街道を経由してゴール(=スタート地点)のガトーキングダム小海までの約250kmの行程を楽しんだ。その夜は1日目の結果発表と暫定表彰式が行われる懇親会を兼ねたパーティーで、ジャズライブもあり、楽しい夜が更けていった。
2日目はガトーキングダム小海の敷地内でのヒルクライム競技。敷地内道路と駐車場を利用した上り坂を一気に駆け上がるコースだ。キャブセッティングやタイヤの空気圧を念入りにチェックするエントラントも見られる。そうして2日目の表彰式とランチをもって、32回目のコッパディ小海は無事に閉幕となった。
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大畑さんの2CVサハラは途中で何度かのトラブルがあったそうだが、そのたびに自らの手で克服。残念ながら完走こそならなかったものの、ツインエンジン×4WDという独特のメカニズムにもしっかり触れることができ、目的通りの実動テストを存分におこなうことができた。今回の収穫が大きかったことは間違いないので、今後も各地のヒストリックカー・イベントに姿を見せてくれるはずだ。